【元消防職員が解説】「お寒い救急体制」から学ぶ|今も変わらない救急の盲点とは

昭和41年の「近代消防」に掲載された記事に、“お寒い救急体制”という言葉があります。交通戦争と呼ばれた時代、事故は増える一方で、救急体制は追いついていないという問題提起でした。

時代は変わりましたが、救急の本質的な課題は、今も完全には消えていません。この記事から、現代の防災に通じる視点を整理します。


■① 救急は「起きてから整える」では遅い

交通事故が増えた時代、救急の体制整備は後手に回りがちでした。事故が増えてから人員や車両を増やす。これは今でも起きやすい構図です。

救急は、需要が見えてから整えるのではなく、見えないうちに準備しておく分野です。平時の投資や訓練が軽視されると、いざという時に“寒い体制”になります。


■② 救急体制の弱さは「連携不足」に現れる

救急は単独では完結しません。

・119通報の受信
・現場到着
・初期処置
・搬送先選定
・医療機関受け入れ

このどこか一つが詰まると、全体が遅れます。被災地派遣(LO)で現場調整に入った時も、救急搬送のボトルネックは「医療側の受け入れ逼迫」や「情報伝達の遅れ」に集中していました。装備より、流れが大事です。


■③ 市民の理解不足も“寒さ”を生む

救急体制が寒くなる原因の一つは、市民側の理解不足です。

・軽症でも救急車を呼ぶ
・救急車をタクシー代わりに使う
・現場で症状説明が曖昧

これが積み重なると、本当に必要な現場への到着が遅れます。救急は有限資源です。これは行政が強く言いにくい本音でもあります。


■④ 「自律型避難」は救急負担を減らす

自律型避難とは、「助けが来るまで自分で持ちこたえる力」を持つことです。

・家庭での初期手当
・止血の知識
・誤嚥・窒息時の対応
・熱中症の初期判断

こうした基本が広がるだけで、救急の負担は軽くなります。私は元消防職員として、現場で“あと5分早く手当が始まっていれば”と感じたケースを何度も見てきました。救急の寒さを埋めるのは、地域の力です。


■⑤ 救急は「数」より「質と配置」

車両や隊員を増やすだけでは解決しません。

・人口動態
・高齢化率
・事故多発地域
・搬送時間の平均

こうしたデータを基に、配置と戦略を組む必要があります。昭和の時代に問題提起された「盲点」は、今ならデータで見える時代です。見えるのに動かないことが、最大の寒さです。


■⑥ 救急教育は“特別な人”のものではない

救命講習を受けるのは一部の人、という意識はもったいないです。

・AEDの使い方
・胸骨圧迫
・止血法

これらは、専門職でなくてもできる命のリレーです。被災地でも、最初の数分を市民がつないだ事例は少なくありません。救急体制の厚みは、市民参加で決まります。


■⑦ 「寒い体制」にしないための家庭の準備

家庭でできる救急備えはシンプルです。

・救急箱の中身を把握する
・持病・薬の情報をまとめる
・緊急連絡先を見える場所に置く

搬送時に情報が整理されていると、救急現場は一気にスムーズになります。これは現場にいた立場から断言できます。


■⑧ 今も問い続けるべき「救急の盲点」

昭和41年の記事が問いかけた“お寒い救急体制”という言葉は、過去の話ではありません。

・災害時の同時多発救急
・高齢化による搬送増
・多言語対応
・医療機関の逼迫

これらは現代の盲点です。備えは進歩しましたが、負荷も増えています。


■まとめ|救急は「現場」だけで完結しない

“お寒い救急体制”という言葉は、体制の弱さだけでなく、社会全体の準備不足を指しています。救急は、消防だけの問題ではありません。行政、医療、市民、それぞれが少しずつ備えることで、初めて温度が上がります。

結論:
救急体制の強さは「現場の数」ではなく「社会全体の準備量」で決まる。
元消防職員として感じるのは、寒い体制を温めるのは、派手な改革よりも、地道な教育と連携の積み重ねだということです。今できる小さな備えが、次の誰かの命をつなぎます。

出典:http://ff-inc.co.jp/wpmailmaga/sekisyoku_no40_c

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