女性労働基準規則の「就業制限」は、現場の配慮ではなく“法令に基づく安全設計”です。対象は全ての女性労働者で、特に妊娠・出産・授乳期は健康影響が大きくなり得るため、より慎重な運用が求められます。
結論から言うと、就業制限の判断は「対象26物質」だけで決まりません。蒸気・粉じんの発散状況や作業環境測定の結果(第三管理区分)によって、就業制限の範囲が具体化されます。
■① 結論|就業制限は「対象物質×作業環境」で決まる
就業制限の範囲は、次の枠組みで整理すると迷いません。
・関係法令に基づく就業制限がある(義務)
・規制対象は「妊娠・出産・授乳機能に影響のある26物質」
・ただし、制限は“危険度が高い作業環境”にかかる
つまり、対象物質があっても、作業環境の条件に該当しなければ就業制限の範囲には入りません。
■② 関係法令|就業制限の根拠はこの2本
就業制限の根拠は、主に次の条文です。
・労働基準法 第64条の3
・女性労働基準規則 第2条、第3条
現場の「気遣い」ではなく、法令として就業制限が規定されている点が重要です。配置や作業割り当ては、職場側の責任で整理する必要があります。
■③ 規制対象の考え方|26物質は「影響があり得るから先に止める」
解説のポイントは、妊娠・出産・授乳機能に影響のある26の化学物質を規制対象にしていることです。
ここで大切なのは、症状が出てから止めるのではなく、曝露が起こり得る条件を先に切るという考え方です。化学物質は見えない危険だからこそ、予防が最優先になります。
■④ 就業制限①|タンク内・船倉内など「発散が著しい」業務
就業制限の範囲①は、次のような業務です。
・タンク内、船倉内での業務など
・規制対象物質の蒸気や粉じんの発散が著しい
・呼吸用保護具の着用が義務付けられている業務
つまり、密閉・準密閉で濃度が上がりやすく、呼吸用保護具が必須となるレベルの環境が該当します。
「場所」と「発散の程度」が、就業制限の判断の中心になります。
■⑤ 就業制限②|第三管理区分となった屋内作業場での業務
就業制限の範囲②は、次の条件です。
・労働安全衛生法令に基づく作業環境測定を実施
・「第三管理区分」となった屋内作業場での業務
第三管理区分は、規制対象物質の空気中平均濃度が規制値を超える状態を示し、改善が必要なレベルです。
現場で重要なのは、感覚ではなく「測定→区分→配置判断」という流れで迷いを減らすことです。
■⑥ 実務で迷わないために|“該当の有無”を短時間で判定する
現場運用では、次の確認順が最も早いです。
1 対象26物質を扱うか(SDSや使用薬品リストで確認)
2 作業がタンク内・船倉内など発散が著しい条件か(保護具義務の有無)
3 作業環境測定の結果が第三管理区分か(屋内作業場の区分)
この3つで該当すれば、就業制限の範囲に入ります。該当しないなら、別のリスク低減策(換気・密閉化・代替・工程変更等)を含めて安全設計を組みます。
■⑦(一次情報)化学物質は「見えない」から、最終的に人を守るのはルール
元消防職員として、化学物質関連の現場対応では「見えない」「臭いが弱い」「後から症状が出る」ケースがあることを何度も見ました。
被災地派遣や現場対応でも同じで、忙しい時ほど“経験と勘”に寄りたくなります。しかし、化学物質だけはそれが通用しません。測定値、管理区分、保護具、立入制限。こうしたルールが命を守ります。
妊娠・出産・授乳に関わる就業制限は、特別扱いではなく、曝露を起こさないための最短ルートです。
■⑧ よくある落とし穴|「対象物質がある=全部禁止」ではない
就業制限は一律禁止ではなく、特定の作業環境条件に該当する場合に範囲が定まります。
逆に言えば、対象物質があっても、発散が抑えられ、測定で第三管理区分ではない環境なら、就業制限の範囲から外れる場合もあります。
判断を軽くするコツは、議論を人格や気合に寄せず、「条件」に落とすことです。
■まとめ|就業制限は「発散が著しい業務」と「第三管理区分の屋内作業場」が中核
就業制限の範囲は、関係法令(労働基準法第64条の3、女性労働基準規則第2条・第3条)に基づき、妊娠・出産・授乳機能に影響のある26物質を扱う作業場のうち、
① 蒸気・粉じんの発散が著しく、呼吸用保護具が義務となる業務
② 作業環境測定で第三管理区分となった屋内作業場での業務
この2つが核になります。
結論:
就業制限は「対象26物質」だけでなく、「発散が著しい条件」または「第三管理区分」の該当で範囲が決まる。迷ったら条件で判断する。
元消防職員としての実感でも、化学物質は“見えない危険”です。だからこそ、法令と測定に沿って淡々と安全設計することが、最も確実で、最も人にやさしい方法です。
出典:厚生労働省「妊娠中・出産後の女性労働者の母性健康管理」リーフレット

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