海の現場は、道路以上に「一度の判断ミス」が大事故につながります。今回、高松海上保安部の巡視艇「ことなみ」が、緊急用務ではない状況で速力制限を超えた疑いで、船長の海上保安官が海上交通安全法違反の容疑で書類送検されたと報じられました。
災害対応でも日常業務でも、“特例”の扱いを誤ると信頼と安全の両方が崩れます。元消防職員として現場で痛感してきた「ルールの意味」を、生活防災の視点で整理します。
■① 何が起きたのか(報道の要点)
報道によると、巡視艇「ことなみ」は緊急船舶の指定を受けている一方で、当時は緊急用務に従事していなかったにもかかわらず、備讃瀬戸東航路の速力制限区間で制限を超える速力で航行した疑いがあるとされています。
速力制限区間では「12ノットを超える航行が禁止」とされ、海上交通センターが速度超過を探知して通報し、捜査の結果、容疑が確認されたとして書類送検に至った、という流れです。
■② 「緊急船舶の特例」は万能ではない
緊急車両・緊急船舶には、やむを得ない必要がある場合に限り、一定の特例が認められる制度があります。
ただし重要なのは、「指定されていること」ではなく、「その瞬間が緊急用務かどうか」です。ここを取り違えると、特例は一転して“違反”になります。
消防の現場でも、サイレンや赤色灯は「免罪符」ではありません。緊急走行は“必要最小限の特例”であって、常に最大速度で走ってよいという意味ではない。これは海でも同じです。
■③ 速力制限は「遅くしろ」ではなく「衝突を防げ」
海の交通は、車のようにブレーキで止まれません。
速力が上がるほど、止まれない・曲がれない・相手が避けきれない、が一気に増えます。
航路の速力制限は、単なる取り締まり目的ではなく、以下のリスクを下げるために設定されます。
- 衝突・接触事故(大型船・小型船の速度差による危険)
- 波浪(航走波)による転覆・落水
- 視界不良時の回避不能
- 航路内の混雑時の連鎖事故
災害時に海を使う避難や輸送が発生するほど、「速度を守る価値」は上がります。
■④ “認識ミス”が一番こわい(現場でよく起きる)
報道では「船長の認識ミスが原因か」とされています。
現場で怖いのは、悪意よりも「思い込み」です。
災害対応でも、判断が連続すると、人はこうなりがちです。
- 「いつも通っているから大丈夫」
- 「緊急指定だから許されるはず」
- 「早く戻らないと次の任務に間に合わない」
私も被災地での調整役(LO)として動いた時、時間圧が強いほど、判断が雑になりやすい場面を何度も見ました。
だからこそ、手順・確認・ルールは“面倒”ではなく、“自分と周囲を守る最後の柵”です。
■⑤ 生活防災として私たちが学べるポイント
このニュースは「海の話」で終わりません。私たちの防災にも直結します。
- 特例(例外)を当てにしない
災害時ほど「例外が使えるはず」と期待すると危険です。例外は最終手段。 - 安全のルールは“弱い立場”を守る設計
航路の速力制限は、小型船・漁船・作業船など、影響を受けやすい側を守る意味があります。 - 信頼は一瞬で崩れる
災害時、指示に従ってもらうには「平時の信用」が必須です。公的機関ほど、平時の遵法が防災力になります。
■⑥ 海を使う人の備え(釣り・フェリー・小型船)
海に関わる趣味や移動がある人は、次の“最低限”を整えるだけで事故確率が下がります。
- ライフジャケットは「着る前提」で選ぶ(サイズ・動きやすさ優先)
- 天候と潮流の確認を「出発の儀式」にする
- 航路付近では無理をしない(近づかない・横切らない)
- 連絡手段を複線化(スマホ+予備電源+同行者への共有)
- 帰着時刻の共有(家族・友人に伝える)
災害時も同じで、「連絡が途切れる」「体が冷える」「落水する」は、助かる確率を一気に下げます。
■⑦ 災害対応の現場感覚:速さより“事故を起こさない”が正義
被災地では「急げ」が先行しがちですが、本当に強い現場は“事故を起こさずに急ぐ”現場です。
私が災害派遣で強く感じたのは、二次災害を出すと、救えるものが救えなくなるという現実です。
- 事故が起きれば人員も時間も奪われる
- 信頼が揺らげば指示が通りにくくなる
- ルール軽視は連鎖する(周囲も緩む)
だからこそ、「特例は必要な時だけ」「ルールは目的がある」という感覚を、平時から持っておくことが防災になります。
■⑧ 今日できる最小行動(1つだけ)
海に関わる人は、次のどれか1つだけ実行してください。
- 釣り・フェリー・小型船の予定がある人:ライフジャケットを“次回必ず着る”と決めて準備する
- 予定がない人:家族の誰かが海に行く時の「帰着時刻を共有する」をルール化する
小さくても、命を守る行動は積み上がります。
出典:RSK山陽放送(NewsDig)「高松海上保安部の巡視艇『ことなみ』が緊急用務外で速度超過か…船長を書類送検」(2026年2月19日)


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