【元消防職員が解説】発信機の電波で「早く見つける」山岳遭難対策:ココヘリが示した現実と備え

冬山やバックカントリーの遭難は、天候・地形・視界不良が重なり、捜索が難航しやすい分野です。山形・西吾妻山では、携帯型発信機の電波を手がかりに場所が特定され、行方不明者の発見につながりました。ただし結果は「低体温症」で、命を救うには“見つける速度”だけでなく、“低体温に負けない準備”も同時に必要だと痛感します。

現場にいた側(元消防職員)として率直に言うと、山の捜索は「本人の情報が少ないほど、時間が溶ける」活動です。逆に言えば、事前の備えが数時間〜一日単位で結果を変えます。今回はその差を、発信機がはっきり見せました。

■① 何が起きたのか:発見が早かった“理由”

報道によると、西吾妻山で行方不明となっていた男性について、警察が身元を発表し、死因は低体温症でした。そして発見までが比較的短時間だった背景として、携帯型発信機を使う捜索サービスの活用が挙げられています。提携する民間ヘリが発信機の電波を捉え、現場の特定につながったとされています。

ここが重要です。
「発見が早い」=「助かる」とは限りません。
低体温症は、進行が早い。装備や行動の小さなミスが、短時間で取り返しのつかない差になります。

■② ココヘリの仕組みを一言で言うと

ココヘリは、携行する小型発信機の電波を、受信機を積んだヘリやドローン等が探知して、距離表示などを手がかりに位置を絞り込む仕組みです。スマホの電波やGPSが不安定になりやすい山中でも、専用の発信機で「居場所を探す」発想が強みです。

現場目線で言うと、これは捜索の“入口”を一気に作ってくれます。
・どの尾根か、どの沢か
・標高帯がどのあたりか
この推定ができるだけで、部隊の当たり方が変わります。

■③ 「スマホがあるから大丈夫」が危ない理由

山の現場で多い誤解がこれです。

  • 圏外になる
  • バッテリーが寒さで急落する
  • 画面操作が手袋でできず、焦ってミスる
  • 位置情報が飛ぶ(ズレる)
  • そもそも転倒・負傷で操作不能になる

私は訓練でも実災害でも、「情報が取れない=捜索が長期化する」ケースを何度も見ました。家族にとっても、捜索側にとっても、時間は本当に残酷です。

■④ 低体温症は“気合いで耐えられない”

今回、死因が低体温症とされています。
低体温は、体力や根性でどうにかなる相手ではありません。特に冬山は、風が当たるだけで体温が削られます。

よくある落とし穴:

  • 「汗をかいてもそのまま」→ 汗冷えで一気に悪化
  • 「止まったら寒い」→ だから歩き続けて迷いが深くなる
  • 「手足がかじかむ」→ ファスナーや電話が扱えなくなる

現場感覚として、低体温症は“判断力が落ちた時点で負けが始まる”病態です。迷い・焦り・判断ミスが連鎖します。

■⑤ 山に入る前にやるべき「3点セット」

ここだけは、今日のうちに整えてください。

1) 登山届(ルート・時間・同行者・車両情報)
2) 連絡手段の二重化(スマホ+予備電源/発信機など)
3) 共有(家族・友人に「どこに」「いつまで」)

元消防職員として言い切ります。
「登山届を出す人」は責められません。
「出さずに行方不明になる人」は、家族も捜索側も苦しみます。
これは精神論ではなく、情報の有無が捜索難易度を決めるからです。

■⑥ 遭難したら:まず“場所”より“生存条件”を作る

もし道迷い・転倒・視界不良で「まずい」と感じたら、優先順位はこうです。

  • 風を避ける(尾根から少し外す、雪洞や樹林帯を使う)
  • 体を濡らさない/汗を止める(行動を止め、衣類調整)
  • 体温を守る(防寒着を出す、非常用シートを使う)
  • 位置情報を残す(発信機、通報、目印)

捜索側は「最後の確定情報」から当たりをつけます。
あなたが残す情報が、あなたの救命率を上げます。

■⑦ 現場で感じる“本音”:装備は「家族のため」に持つ

報道でも、関係者が「万が一のために、家族のために」活用を呼びかけています。
これはきれいごとではなく、現場の本音に近い。

遭難は本人だけの問題ではなく、

  • 家族の不安
  • 捜索隊の危険
  • 地域資源(人員・時間・天候条件)
    全部を巻き込みます。

私自身、被災地派遣や行政側の現場(LO的な調整役)で「情報がある現場ほど、人は安全に動ける」ことを何度も体験しました。山でも同じです。情報が、救命と安全を作ります。

■⑧ 今日できる最小行動

次の登山・山遊びの前に、これだけやれば“生存率が上がる側”に寄ります。

  • 予備手袋(濡れた時の交換用)を1セット追加
  • 防寒着は「止まった時に着る」前提で用意
  • バッテリーは寒さ対策(内ポケット保温)
  • 登山届とルート共有をテンプレ化
  • 「スマホ以外の手段」を一つ持つ(発信機等)

■まとめ

今回の西吾妻山の事案は、発信機による電波探知が「場所の特定」を速めた一方で、低体温症という“時間との戦い”の厳しさも示しました。 oai_citation:5‡さくらんぼテレビ
山の備えは「助けを呼ぶ」だけでは足りません。
「助けが来るまで、生きていられる条件を作る」ことまで含めて初めて完成します。

■出典
さくらんぼテレビ「発信機からの電波で居場所を探知・捜索サービス『ココヘリ』で行方不明者の遺体発見 山形・西吾妻山」(2026年2月16日)
https://www.sakuranbo.co.jp/news/2026/02/16/2026021600000008.html

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