火災対応では「水で消せない火」があります。
とくに石油類などの液体火災では、燃えている液面を覆い、酸素を遮断し、再燃を抑える“泡”が重要になります。
その中でも古くから使われてきたのが「たん白泡消火薬剤」です。
防災としては、性能だけでなく、保管・劣化・環境面まで含めて理解しておく必要があります。
■① たん白泡消火薬剤の基本|“タンパク質由来”の泡
たん白泡消火薬剤は、タンパク質(動植物由来の加水分解たん白など)を主成分として作られた泡薬剤です。
特徴は次の通りです。
・泡が比較的しっかりしている
・燃焼面を覆って窒息消火に寄与する
・液体火災(油火災)で有効な場面がある
「燃えている液面を泡で覆い、燃料と空気を遮断する」という考え方が中心です。
■② どんな火災で使うのか|油火災の再燃防止が狙い
たん白泡が使われるのは、主に次のような場面です。
・危険物(石油類)火災
・油槽、タンク周辺の火災
・漏えい燃料の火災
・広い燃焼面が形成される火災
水だけでは燃焼面を覆えない場合、泡の「被覆力」が重要になります。
■③ メリット|泡の安定性と“覆う力”
たん白泡の強みは、泡が比較的安定しやすいことです。
・泡膜が厚く、燃焼面を覆いやすい
・一定時間、被覆が残ることで再燃を抑えやすい
・運用が標準化されている現場がある
火災は「消した直後の再燃」が一番怖い場面があります。
泡はその再燃を抑える役割を担います。
■④ 注意点|劣化・腐敗・保管管理が重要
たん白泡は“タンパク質系”であるがゆえに、保管や管理の注意点があります。
・長期保管で性能低下が起きる可能性
・保管環境(温度、湿度)で劣化しやすい
・更新管理を怠ると、いざという時に泡が立たない
被災地派遣の現場でも、資機材が「あるのに使えない」場面は起きます。
防災は“装備の有無”ではなく“使える状態か”が勝負です。
■⑤ 環境面の視点|泡は“流れた後”まで考える
泡薬剤は消火後に水と混ざり、排水として流れることがあります。
・現場周辺の土壌や水環境への配慮
・回収や処理の手順
・関係機関との調整(施設・自治体・事業者)
近年はPFASなど環境影響の議論もあり、泡薬剤全体が「性能と環境」の両立を求められています。
たん白泡も、運用設計の一部として扱うことが重要です。
■⑥ 現場感覚として|泡は“撒けば終わり”ではない
元消防職員としての実感では、泡は「撒く量」と「撒き方」で結果が変わります。
・流し込むのか、壁面を使ってやさしく載せるのか
・泡を壊さずに燃焼面を覆えるか
・風や熱で泡が飛ばされないか
泡は繊細です。
雑に当てると泡膜が壊れ、再燃を招くことがあります。
■⑦ 災害時の視点|化学的消火資機材は“運用できる体制”が前提
災害時は人手も資機材も限られます。
・薬剤の希釈や混合ができるか
・放射機器が正常に稼働するか
・補給体制があるか
・排水や回収の調整ができるか
LO調整の現場では、「資機材を持ち込むこと」より「回せる体制があること」が重要でした。
化学系資機材は特に、導入の前に運用設計が必要です。
■⑧ 今日できる最小行動|更新期限と保管状態を確認する
施設管理や備蓄の視点では、まずここからです。
・泡薬剤の種類(たん白泡か、合成泡か)を確認
・保管年数、更新計画を確認
・容器の状態(漏れ、膨張、沈殿)を点検
・訓練で実際に泡が立つか確認する
「いざという時に出ない」は、防災で一番痛い失敗です。
■まとめ|たん白泡は“油火災に強い泡”。保管管理と運用設計が命
たん白泡消火薬剤は、タンパク質系の成分を用いた泡薬剤で、油火災などで燃焼面を覆い再燃を抑える役割を持ちます。
一方で、劣化や保管管理、消火後の処理など、運用まで含めた設計が必要です。
結論:
たん白泡は「性能」より「使える状態の維持」と「撒き方の設計」で価値が決まる。
元消防職員として、火災現場は“その場の一発勝負”です。だからこそ、薬剤は備えるだけでなく、期限・状態・運用を整えておくことが、命を守る実力になります。
出典:総務省消防庁「危険物施設等における消火・泡消火薬剤に関する資料」 https://www.fdma.go.jp/

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