【防災士が解説】延命治療を「やめられない」を防ぐ準備|学会指針案の要点と、災害時に家族を守る意思決定

救急や集中治療の現場では、人工呼吸器などの生命維持治療を「始めるか」「続けるか」「終えるか」を短時間で判断せざるを得ない場面があります。関連学会が公開した指針案では、本人と家族、医療者が話し合って方針を決める進め方や、治療を終了する際の緩和ケアの手順が具体化されました。
この動きは医療の話題に見えて、実は防災とも深くつながっています。災害時は情報が途切れ、家族が離れ、意思確認ができない状況が起きやすいからです。平時に少し備えるだけで、家族の判断と心の負担を大きく減らせます。


■① 指針案の核心|「本人中心の話し合い」を明確化

今回の指針案の大きなポイントは、患者本人の価値観や希望を尊重し、本人を中心に家族や医療者が話し合って方針を決めることを明確にした点です。
「誰が」「何を材料に」「どう合意するか」を言語化することで、現場で起きやすい行き違いを減らす狙いがあります。


■② 終末期を定義しない理由|定義より「手順」が役に立つ

指針案では、終末期をあえて定義しない形が示されています。
状況は患者ごとに異なり、「この状態が終末期」と線引きするほど現場は単純ではありません。だからこそ、定義で議論を止めるより、生命維持治療を始めない・終了する場面での判断手順を具体化する方が実務に直結します。


■③ 「差し控え」と「終了」|どちらも判断の負担が重い

生命維持治療を「始めない(差し控え)」のか、「一度始めた治療を終了する」のかは、家族の心理的負担が大きく変わります。
どちらの場面でも、本人の希望が共有されていないと、家族は「自分が決めてしまった」という重さを背負いがちです。平時の共有が、家族を守る備えになります。


■④ 期限付きで治療を試す|「始めたら終われない」を防ぐ

指針案では、期限を区切って治療を試す考え方も示されています。
最初から「ずっと続ける/すぐやめる」の二択にせず、一定期間で評価して見直す前提を置くことで、家族も医療者も現実的な合意を作りやすくなります。


■⑤ 治療終了=放置ではない|緩和ケアと家族支援を手順に含める

治療を始めない、または終了する場合でも、患者の苦痛を和らげる緩和ケアの方法や、家族支援の必要性が言及されています。
「苦しませたくない」という家族の不安はとても大きいものです。緩和ケアの考え方をセットで理解しておくことは、話し合いを前に進める土台になります。


■⑥ 災害時に起きやすい問題|意思確認ができないまま判断が迫られる

災害時は、搬送が増える、医療機関が逼迫する、家族が面会できない、連絡がつかないといった状況が起きやすくなります。
このとき本人の希望が共有されていないと、家族は判断材料がないまま決断を迫られます。防災としてできることは、「本人の希望を一文でも残す」「代理で判断する人を決める」「最低限の医療情報をまとめる」ことです。


■⑦ 防災としての現実解|ACPの“最低限版”を家族で共有する

難しい書類や完璧な準備は不要です。まずは家族で、次の3点だけ共有しておくと効果が大きいです。
・何を最優先するか(例:苦痛を減らすことを最優先/意識を保つことを重視 など)
・意思決定の代理人(誰が最終判断を担うか)
・医療情報の所在(かかりつけ、薬、アレルギー、連絡先)

この3点があるだけで、いざという時の話し合いが現実的になります。


■⑧ 今日できる最小行動|スマホに「医療メモ」を作る

今日できる最小行動は、スマホのメモに「医療メモ」を作ることです。
・氏名/生年月日
・持病/アレルギー
・服薬(薬名が分からなければ薬の写真)
・かかりつけ(病院名・電話)
・緊急連絡先(家族)
・もしもの方針(例:苦痛を減らすことを最優先。延命の判断は家族と医師で相談 など一文)

災害時は情報が切れます。このメモ1つが、家族と医療者の判断を支える「命の情報」になります。


■まとめ|家族の判断を軽くする防災は「意思の共有」から

延命治療に関する指針案は、本人中心の話し合い、判断手順の具体化、期限付きで治療を試す考え方、治療終了時の緩和ケアや家族支援といった要素を示しました。
この話題は医療だけではなく、災害時の情報断絶と意思決定の負担に直結します。平時にACPの“最低限版”と医療メモを整えることは、家族の心を守る防災になります。

結論:
災害時に家族を守る最大の備えは、本人の希望を「一文でも」共有し、判断の代理人と医療情報を見える形で残しておくことです。
防災士として被災地派遣の現場に入った経験から言うと、物資不足以上に家族を追い込むのは「判断疲れ」です。情報がない状態で決めるほど苦しいものはありません。だからこそ、今日できる最小行動として、医療メモと一文の方針を残しておくことを強くおすすめします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました