地震で怖いのは、揺れそのものだけではありません。
揺れのあとに起きる「火災」が、被害を何倍にも広げます。
東日本大震災では地震火災の約半数が電気火災でした。
その対策として有効とされるのが「感震ブレーカー」です。しかし、普及は思うように進んでいません。
なぜ必要なのか。なぜ広がらないのか。
現場経験を踏まえて整理します。
■① 地震火災の正体は「電気」にある
地震時の火災は、倒れたストーブだけが原因ではありません。
・配線の損傷によるショート
・電源コードの圧迫
・停電後の再通電による「通電火災」
阪神・淡路大震災では地震火災の約6割、東日本大震災では約5割が電気火災でした。
能登半島地震でも電気配線の損傷が原因とみられる火災が発生しています。
揺れの直後よりも、「復旧の瞬間」が危険です。
■② 感震ブレーカーとは何か
感震ブレーカーは、一定の揺れを感知すると自動で電気を遮断する装置です。
種類は大きく3つ。
・分電盤タイプ(家全体を遮断)
・コンセントタイプ
・簡易型(重り落下式など)
価格は、
・コンセント型:約5,000円前後
・分電盤型:約10万円前後(工事費込み)
決してゼロ円ではありませんが、焼失リスクを考えれば費用対効果は非常に高いと言えます。
■③ 首都直下地震想定では“焼失7割減”
最新の被害想定では、
感震ブレーカー普及率100%の場合、焼失棟数は約7割減少する見通しとされています。
これは数字として非常に大きい。
火災は連鎖します。
1軒が出火すれば、密集地では一気に延焼します。
「自分の家」だけの問題ではありません。
■④ なぜ普及しないのか
自治体支援は都道府県で約2割、市区町村で約1割。
理由は主に3つ。
・財政困難
・必要性の認知不足
・人手不足
さらに専門家が指摘する最大の理由は、
義務化されていないこと。
ただし、義務化すると停電により避難行動に支障が出る可能性もあり、慎重論もあります。
■⑤ 現場で見た「電気が原因の延焼」
元消防職員として火災現場を何度も見ましたが、
火が出る瞬間は小さくても、延焼は一気です。
被災地派遣やLOとして入った地域でも、
「停電からの再通電」がきっかけで出火した事例がありました。
家の中が無事でも、
隣家から燃え広がるケースがある。
だからこそ、個別対策ではなく“地域単位”での対策が重要です。
■⑥ 面的対策の重要性
専門家が指摘する通り、
密集市街地で1軒だけ設置しても意味が薄い。
火災は面で広がります。
だから対策も面で必要です。
・町内単位で補助制度を活用する
・自治会で共同購入する
・木造密集地から優先導入する
これが合理的なアプローチです。
■⑦ 今日できる最小行動
すぐ感震ブレーカーを設置できなくても、今できることがあります。
・電気ストーブ周辺を整理する
・延長コードの劣化を確認する
・地震後はブレーカーを落としてから避難する
・復旧時は必ず在宅確認する
「通電火災」を防ぐ意識だけでも被害は減ります。
■⑧ 防災は“火を出さない人”が地域を守る
大規模災害では、消防はすぐ来られません。
道路寸断・同時多発火災・人手不足。
そのとき延焼を止めるのは、
最初の出火を防ぐこと。
感震ブレーカーは派手ではありません。
しかし、焼失7割減という数字は重い。
■まとめ|地震後の火災は「止められる」
感震ブレーカーは、地震火災を大幅に減らせる現実的な対策です。
普及が進まない背景には財政や制度の課題がありますが、リスクは明確です。
結論:
地震後の火災は“運”ではない。事前に止められるリスクである。
元消防職員として断言できます。
火は出さないことが最大の防災です。
出典:産経新聞「地震火災対策、普及進まず 揺れ感知し遮断する『感震ブレーカー』」

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