【防災士が解説】防災専従職員がいない自治体のリスク|南海トラフ時代に求められる地域防災の底上げ

災害対策というと、避難所、備蓄、ハザードマップに目が向きやすいですが、それらを平時から整え、災害時に動かす「人」の存在も非常に重要です。読売新聞の集計では、防災や危機管理を専従で担う職員が不在の市町村が全国の24%、433市町村に上るとされています。南海トラフ地震で被害が想定される地域でも、防災専従職員がいない自治体が目立つという現実は、住民にとって決して他人事ではありません。防災士として見ると、災害時の初動を左右するのは設備だけではなく、「平時から防災を考え続ける担当者がいるかどうか」も非常に大きいと感じます。


■①(防災専従職員とは何をする人か)

防災専従職員は、平時には地域防災計画の策定、避難所運営体制の整備、防災訓練の企画、関係機関との調整などを担います。そして災害時には、避難指示の発令支援、災害対策本部の運営、避難所の立ち上げ調整、情報収集と整理など、自治体防災の中心的な役割を果たします。つまり、防災専従職員は「何か起きた時だけ出てくる人」ではなく、平時から地域の備えを回し続ける存在です。防災は仕組みだけでは動かず、それを現実に運用する人が必要です。


■②(専従職員がいないと何が起きやすいのか)

防災専従職員がいない自治体では、総務や他部署の職員が防災業務を兼務することが多くなります。それ自体が直ちに悪いわけではありませんが、平時の備えが後回しになったり、災害時の初動が遅れたりするおそれがあります。
・避難情報の判断が遅れる
・避難所運営の準備が浅くなる
・訓練や計画見直しが進みにくい
・住民への周知が弱くなる
こうしたことが積み重なると、「大災害が起きた時に一気に弱さが出る」形になりやすいです。元消防職員として見ても、初動が遅れる地域ほど、その後の混乱は大きくなりやすいと感じます。


■③(南海トラフ被害想定地域でも不在が目立つ重さ)

今回の報道で特に重いのは、南海トラフ地震で津波が予想される139市町村のうち、18%にあたる26町村で防災専従職員がゼロだったという点です。南海トラフ巨大地震は、発災直後から広域かつ同時多発で被害が出ることが想定されています。そうした災害では、「普段から防災を専従で考えてきたかどうか」がそのまま地域の初動力に表れやすくなります。防災士として見ると、被害想定が大きい地域ほど、人の備えも厚くしておく必要があります。


■④(大都市と小規模自治体の差が見えやすい)

記事では、名古屋市や横浜市では100人超、神戸市でも70人超の防災専従職員を配置しているとされています。一方で、小規模自治体では財政上の理由などから、専従職員を置けない状況が続いているとみられています。これは単純に「やる気の差」という話ではなく、自治体規模、財政、人材確保の難しさが影響している現実です。ただ、住民側から見れば、自治体規模にかかわらず災害は起きます。だからこそ、小さい自治体ほど、地域、消防団、自主防災組織、住民同士のつながりを厚くして、行政の弱い部分を補う視点が重要になります。


■⑤(東日本大震災後に前進したが、まだ十分ではない)

2010年時点では、全自治体の43%にあたる760市町村で防災専従職員がゼロだったのに対し、今回は24%まで減っています。これは、東日本大震災をきっかけに、各地で防災体制の強化が進んできたことを示しています。ただ、防災士として感じるのは、「前より良くなった」ことと「次の大災害に十分備えられている」ことは別だということです。数字が改善しても、南海トラフや首都直下のような巨大災害を考えると、まだ地域差や脆弱さが残っていると受け止める必要があります。


■⑥(住民が行政任せにしないことの大切さ)

防災専従職員が少ない、あるいはいない自治体ほど、住民側が「行政が全部やってくれる」と考えるのは危険です。
・避難場所を自分で確認する
・家族の連絡方法を決める
・地域の防災訓練に参加する
・自主防災組織の活動を知る
・高齢者や子どもの支援を考える
こうしたことを住民側でも進める必要があります。被災地派遣やLOの現場感覚で言うと、行政の力が届きにくい時に強い地域は、「平時から住民が少し動いていた地域」です。防災は行政の仕事ですが、同時に住民の営みでもあります。


■⑦(防災士として現場で感じる“人の備え”の重要性)

元消防職員として、また災害対応の現場を見てきた立場で強く思うのは、災害時に差を生むのは、設備の有無だけではなく「誰が平時から回していたか」だということです。避難所も、防災計画も、訓練も、置いてあるだけでは機能しません。人が見直し、人が調整し、人が現場で動いて初めて防災になります。だから、防災専従職員がいない自治体が多いという事実は、単なる人員配置の問題ではなく、地域の防災力そのものに関わる問題だと感じます。これは現場感覚としてかなり重い話です。


■⑧(今日できる最小行動)

今日やることを1つに絞るなら、自分の住む市町村の防災担当窓口や地域防災計画がどうなっているかを一度確認してください。
・防災課はあるか
・防災計画は公開されているか
・避難所一覧は見られるか
この3つを見るだけでも、地域防災をかなり自分事として考えやすくなります。防災は、大きな制度論だけでなく、「自分の自治体は今どうなっているのか」を知ることから始まります。


■まとめ|防災専従職員の不在は“地域防災の見えにくい弱点”になりうる

防災専従職員は、平時には計画や訓練、災害時には避難情報や避難所運営などを支える重要な存在です。その専従職員が全国の24%の市町村で不在という現実は、南海トラフ地震のような広域災害を前にすると、見えにくい弱点になりえます。一方で、小規模自治体には財政や人員の制約もあり、単純な批判だけでは解決しません。だからこそ、行政の体制強化と同時に、住民、地域、消防団、自主防災組織が一緒に防災力を底上げしていく視点が必要です。

結論:
防災専従職員がいない自治体の問題で最も大切なのは、“人が足りない”と嘆くだけで終わらず、“行政と住民が一緒に地域防災を支える意識を持つこと”です。
元消防職員として現場感覚で言うと、災害に強い地域は、職員数の多さだけで決まるのではなく、「平時から誰が考え、誰が動き、誰が支え合うか」が見えている地域です。専従職員の不在という現実を、自分の地域の防災を見直すきっかけにすることが大切だと思います。

出典:読売新聞「防災専従職員、全国24%の市町村で不在…南海トラフ地震被害想定地域で目立つ」(2026年3月11日)

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