消防職員の定年は、令和5年度から段階的に65歳まで引き上げられています。
この制度改正は、単なる年齢延長ではなく、消防組織のあり方そのものを問い直す大きな転換点です。
■① 定年引上げの背景と消防特有の課題
少子高齢化の進展と行政課題の高度化を背景に、経験豊富な高齢期職員が能力を発揮し続けることが期待されています。
一方、消防は24時間即応体制を維持する特殊な職務であり、現場業務に従事する交替制勤務職員が約8割を占めます。
火災・救急・救助といった現場活動は、体力や健康状態が直結する「加齢困難職種」であり、一般行政職とは事情が大きく異なります。
■② 高齢期職員の活躍が消防力を左右する
高齢期職員は、長年の経験から得た判断力、技術、危険察知能力を有しています。
災害が複雑・激甚化する中で、これらの力は消防力の重要な構成要素です。
しかし、役職定年制の導入により、
・職務内容の変化
・モチベーション低下
・若手・中堅職員との役割調整
といった新たな課題も生じます。
■③ 現場配置における最大の懸念
加齢に伴う体力・健康面の不安を抱えたまま現場に配置されることは、
本人だけでなく、部隊全体の安全にも影響します。
そのため、
・体力維持プログラムの整備
・軽量資機材の導入
・安全管理体制の強化
など、組織全体での対策が不可欠です。
■④ 適材適所とキャリア形成の重要性
高齢期職員を非現場業務へ配置する場合でも、
突然未経験業務に就かせることは、生産性低下や意欲低下につながります。
そのため、
・若手・中堅期からの中長期的キャリア形成
・非現場業務を想定した研修
・経験を活かした配置
が求められます。
同時に、若手・中堅職員の経験機会を奪わない配慮も欠かせません。
■⑤ 定年引上げが定員管理に与える影響
定年退職が隔年でしか発生しなくなることで、
・新規採用者数の年度間ばらつき
・年齢構成の偏り
が生じやすくなります。
これは、技術継承や人材育成にとって大きなリスクです。
■⑥ 採用数の平準化と消防力維持
消防庁は、定年引上げ期間中においても、
新規採用者数を複数年度で平準化することの重要性を示しています。
一時的な職員増となる年度が生じても、
中長期的な消防力維持のためには必要な措置であり、
住民への丁寧な説明も求められます。
■⑦ 定員見直しという現実的選択
人事配置の工夫や高齢期職員の活躍促進だけでは、
現場対応力を維持できない消防本部も想定されます。
その場合、
・予防業務専門官
・日勤救急隊への配置
・首長部局防災担当への配置
など、高齢期職員の強みを活かす新たな配置を含め、
必要最小限の定員見直しを検討することが現実的です。
■⑧ まとめ:定年引上げは消防改革の機会
定年引上げは、消防組織にとって負担ではなく、
人材・組織・消防力を再設計する好機です。
地域の消防需要と将来予測を踏まえ、
・高齢期職員の活躍
・若手育成
・持続可能な定員管理
を一体で考えることが、
将来にわたり、住民の命と暮らしを守り続ける消防体制につながります。

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