【元消防職員が解説】救急現場で手話が通じる時代へ|遠隔手話通訳サービスが命をつなぐ

救急現場では、数十秒の聞き取りの差が処置の質を左右します。耳が聞こえない、話すことが難しいなど、コミュニケーションに壁があると、症状の把握や既往歴の確認が遅れ、適切な救命処置につながりにくくなることがあります。千葉県・船橋市消防局は、救急現場で手話を必要とする人と手話通訳者をビデオ通話でつなぐ「遠隔手話通訳サービス」を県内で初めて導入しました。元消防職員の視点で、この取り組みがなぜ重要なのかを整理します。


■① 救急現場は「情報」が命を左右する

救急は、まず情報です。どこが痛いのか、いつからか、呼吸は苦しいか、薬は飲んでいるか。ここが曖昧だと処置や搬送判断が難しくなります。

元消防職員として現場で強く感じたのは、症状そのものより「伝えられないこと」が危険になる場面があるということです。患者さんが悪いのではなく、環境側の課題です。


■② 聴覚障害があると何が起きるのか

耳が聞こえない・聞こえにくい方の場合、救急隊員の問いかけが届かないだけでなく、患者さんの情報が十分に伝わらないことがあります。

・痛みの部位や程度
・息苦しさの変化
・アレルギーや服薬
・持病や既往歴

これらが把握できないと、救命処置の選択肢が狭まり、搬送先選定にも影響します。


■③ 遠隔手話通訳サービスの仕組み

船橋市消防局が導入したのは、救急現場で手話を必要とする人と、手話通訳者をビデオ通話でつなぐ仕組みです。救急隊が現場で端末を使い、通訳者を呼び出し、リアルタイムで意思疎通を支援します。

これまでのように病院等へ手話通訳者を派遣する方法では、到着まで時間がかかりやすい課題がありました。現場で即時につながることが大きな改善点です。


■④ 何が良くなるのか|救命処置の精度が上がる

症状や体調変化が素早く伝わることで、救命処置がより的確になります。

・胸痛の性状や放散痛
・呼吸困難の増悪
・意識状態の変化
・出血や外傷の経過

救急は「今どう変化しているか」が重要です。通訳がその場で入ることで、観察と聞き取りが連動し、判断が早まります。


■⑤ 防災士から見た“誤解されがちポイント”

「救急は誰にでも平等に届く」と思われがちですが、実際にはコミュニケーションの壁で不利が生まれることがあります。これは本人の努力不足ではなく、社会側の設計の問題です。

被災地派遣でLOとして避難所に入った際も、情報が届きにくい人が取り残される場面を見ました。災害時も救急も同じで、「伝えられる仕組み」が命を守ります。


■⑥ 災害時にも効く取り組み

災害時は騒音や混雑、停電、言葉の不一致などで、コミュニケーションがさらに難しくなります。遠隔通訳の仕組みは、災害医療の現場でも有効性が高い考え方です。

自律型避難の観点でも、「自分の状態を正確に伝えられる」ことは大きな防災力です。意思疎通ができれば、必要な支援につながりやすくなります。


■⑦ 家族と地域ができる備え

制度やサービスが整っても、現場で使われるには周囲の理解が必要です。

・耳が聞こえない人がいる家庭は、既往歴や服薬情報を紙で携行
・緊急連絡先を文字で示せるカードを準備
・地域の防災訓練で「情報が届かない人」への配慮を話題にする

現場は一回勝負です。準備があれば、救急隊も助かります。


■⑧ 今日できる最小行動

・救急時に伝えるべき情報(持病、薬、アレルギー)をメモにまとめる
・家族の情報をスマホの医療ID機能等に登録しておく
・地域で配慮が必要な人への支援方法を確認しておく

小さな工夫が、救急の質を確実に上げます。


■まとめ|「伝わる救急」は救命率を上げる

船橋市消防局の遠隔手話通訳サービスは、救急現場での“伝わらない”を減らし、より的確な救命処置につなげる取り組みです。救急と防災に共通するのは、情報とコミュニケーションが命を左右するという事実です。

結論:
救急の現場で「伝わる仕組み」を整えることは、命を救う最短ルートになる。

元消防職員として、聞き取りができた瞬間に処置が一段早まる場面を何度も経験しました。誰もが同じスタートラインに立てる救急体制は、平時の安心だけでなく、災害時の強さにもつながります。

【出典】船橋市消防局(消防・救急)
https://www.city.funabashi.lg.jp/shisei/shoukai/001/

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