近年、建物火災は件数こそ減少しているものの、火災時の危険性が下がっているとは言い切れません。
むしろ、高気密・複雑化した建物構造により、内部に熱と煙が蓄積しやすく、消防隊員・要救助者双方にとって過酷な環境が生まれています。
こうした課題に対し、札幌市消防局が導入・実戦運用しているのが「札消式水力換気システム」と専用ノズル【COBRA】です。
■① 火災件数が減っても、危険性は減っていない現実
札幌市消防局では、火災件数は年々減少傾向にあります。
しかし、死者数は件数に比例して減っておらず、依然として深刻な状況です。
その背景には、
・高気密住宅の増加
・煙・熱が建物内部に滞留しやすい構造
・フラッシュオーバーのリスク増大
といった、現代建築特有の問題があります。
■② 従来戦術だけでは対応が難しくなった理由
従来の建物火災では、
・屋内進入による放水
・PPV(陽圧換気)
・ウォーターカッターによる冷却
などが主流でした。
しかし、屋内進入は常に高リスクであり、
フラッシュオーバーに巻き込まれる殉職事故も全国で発生しています。
「進入する前に、いかに室内環境を改善できるか」
これが現場で強く求められるようになりました。
■③ 札消式水力換気システムとは何か
札消式水力換気システムとは、
屋外から放水することで、室内に強制的な陰圧換気を発生させる戦術です。
特徴は、
・屋外から設定が完了
・噴霧放水で煙と熱を吸い出す
・室内に負圧を作り換気流路を固定
という点にあります。
これにより、隊員が安全な状態で室内環境を改善できます。
■④ 専用ノズル【COBRA】の革新性
COBRAは、札幌市消防局とメーカーが共同開発した水力換気専用ノズルです。
主な特徴は、
・屋外に向けて噴霧放水する主ノズル
・室内天井を冷却する抑制ノズル
・窓枠に安定して設置できる形状
放水によって煙と熱を屋外に排出しつつ、
室内温度の上昇を抑制することで、フラッシュオーバーの危険性を低下させます。
■⑤ PPVや従来換気戦術との決定的な違い
PPV(陽圧換気)は有効な戦術ですが、
・建物全体の換気流路設定が必要
・屋内作業が前提になる場合がある
という制約があります。
一方、水力換気は、
・区画(部屋)単位で換気可能
・屋外から完結
・隊員の安全確保を最優先
という点で大きな違いがあります。
■⑥ 実火災で確認された効果
実際の火災現場では、
・進入困難だった高熱環境が改善
・視界が確保され要救助者発見が迅速化
・放水の的が明確になり消火水量が削減
といった効果が確認されています。
水力換気は消火そのものではありませんが、
人命救助と火点制圧を成立させる前提条件を整える戦術と言えます。
■⑦ 行政側が言いにくい本音と現場の実感
消防戦術は「万能な正解」があるわけではありません。
状況に応じて選択肢を増やすことが、隊員の安全と成果につながります。
札消式水力換気は、
・従来戦術を否定するものではない
・現場の武器を一つ増やす取り組み
という位置づけです。
現場では、この「選択肢の多さ」が命を守ります。
■⑧ 防災の視点で見る水力換気の価値
住民目線の防災として重要なのは、
・消防隊が安全に活動できること
・初動対応が迅速に進むこと
・被害拡大を抑えられること
水力換気システムは、
結果的に住民の命と財産を守るための防災技術でもあります。
■まとめ|現代建物火災に必要な「進入前の一手」
建物火災は、件数が減っても難易度は上がっています。
結論:
札消式水力換気は、隊員の安全と人命救助を両立させる現代型火災戦術
元消防職員としての現場経験から見ても、
「屋外から室内環境を変えられる」意義は極めて大きいと感じます。
これからの防災・消防は、
装備と戦術の進化を前提に語られる時代に入っています。

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