119番は「助けを呼ぶ番号」ですが、実際は現場到着までの時間をどう短縮し、どう正確に判断するかが勝負です。
その強力な手段が、スマホを使ったビデオ通話(映像通報/Live119・映像119)です。
元消防職員として、現場で「情報が足りないせいで到着後に状況把握から始まる」ケースも、逆に「通報が的確で最初から最適解に近い動きができる」ケースも見てきました。
災害対応の現場でも同じで、被災地では“伝言ゲーム”が起きやすく、情報がズレるほど判断が遅れます。映像は、そのズレを一気に減らします。
目次
- ■① 119番のビデオ通話(映像通報)とは
- ■② 最大のメリットは「場所と状況の確定が早い」
- ■③ 救急で効くメリット:口頭指導の精度が上がる
- ■④ 火災・事故で効くメリット:危険評価が前倒しになる
- ■⑤ 通報者側のメリット:パニックを落ち着かせやすい
- ■⑥ 逆に注意点:使えない場面・やらない方がいい場面
- ■⑦ 使う流れ:何を求められ、何を映せばいいか
- ■⑧ 今日できる最小行動:映像通報を“使える家庭”にする
■① 119番のビデオ通話(映像通報)とは
映像通報は、119番通報の途中で、消防指令センター(通信指令員)が必要と判断した場合に、通報者のスマホへ案内(URL等)が送られ、映像を共有しながら通報を続けられる仕組みです。
専用アプリなしで使える方式も多く、通報者の同意が取れた場合に協力をお願いする形が一般的です。
ここで重要なのは、映像通報は「常に必須」ではないこと。
有効な場面で使うと、救命・消火・救出の判断が前に進むという位置づけです。
■② 最大のメリットは「場所と状況の確定が早い」
現場でいちばん強いのはこれです。
- 住所が曖昧(交差点・公園・河川敷・商業施設など)
- 集合住宅で棟や入口が分からない
- 「どれくらい危険か」を言葉で説明しづらい
映像があると、指令側は「何が起きているか」を早く掴めます。
私は現場で、到着してから「思っていた状況と違う」と分かり、資機材や隊編成を組み替える場面を何度も見ました。最初に状況が見えるだけで、そのムダが減ります。
■③ 救急で効くメリット:口頭指導の精度が上がる
救急で映像が効くのは、口頭指導(応急手当の案内)が“口頭だけ”から“映像つき”になることです。
- 呼吸の有無、顔色、反応の確認がしやすい
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ)の位置・深さ・テンポを修正できる
- けいれん、外傷、出血量などの緊急度が見えやすい
- 通報者の手が止まりそうなタイミングで声かけできる
被災地派遣(LO)でも、傷病者情報が曖昧だと搬送判断が遅れます。
「被災地派遣・LO・元消防職員・防災士」として感じるのは、医療は情報で加速するということです。映像は、その情報の“確度”を上げます。
■④ 火災・事故で効くメリット:危険評価が前倒しになる
火災や事故は、到着前に「危険」を読み切れるかが大きいです。
- 炎か煙か、規模はどれくらいか
- 逃げ遅れの可能性があるか
- ガスボンベ、危険物、電線など二次災害の芽があるか
- 交通事故なら挟まれ・横転・燃料漏れの有無
現場で怖いのは、到着してから初めて「これは危ない」と分かること。
映像で先に見えれば、進入や資機材、隊員配置をより安全側に寄せられます。
■⑤ 通報者側のメリット:パニックを落ち着かせやすい
通報者にとってもメリットは大きいです。
- 「何をしたらいいか」が目の前の状況に合わせて指示される
- 伝え方に自信がなくても、映像が補ってくれる
- 応急手当を“できているか不安”なときに修正してもらえる
私は現場で「電話で言われた通りにやったけど合ってるか分からなかった」と泣きそうな家族に何度も会いました。
映像があると、その不安を早めに減らせます。
■⑥ 逆に注意点:使えない場面・やらない方がいい場面
映像通報は万能ではありません。むしろ、やらない方がいい場面もあります。
- 通報者自身の安全が確保できていない(火の近く、車道上、ガス臭い等)
- スマホ操作で転倒・事故のリスクがある
- 電波状況が悪く映像が不安定(音声が切れる方が致命的)
- 通報者が高齢で操作が難しい、手が離せない
この場合は、無理に映像にこだわらず、音声で「場所」「状態」「危険」だけ確定させる方が強いです。
映像は“安全に使える時だけ”で十分です。
■⑦ 使う流れ:何を求められ、何を映せばいいか
現場で迷いやすいのは「何を映すか」です。基本はこれでOKです。
- まず全体(どこで何が起きているか)
- 次に近景(傷病者の顔色・胸の動き、出血、煙の出方など)
- 位置特定(看板、建物名、交差点名、入口、階数表示)
そして、いちばん大事なのはこれです。
映像を撮るために危険な場所に近づかない。
安全な距離で、指令員の指示に従ってください。
■⑧ 今日できる最小行動:映像通報を“使える家庭”にする
備えは重いほど続きません。今日やるなら、この3つで十分です。
1) スマホのロック解除を家族で確認(緊急時に開けないのが一番多い)
2) 住所をスマホのメモに登録(コピペできる形で)
3) 家族で一言だけ共有:「映像を頼まれたら、安全な場所から全体→近景→目印」
たったこれだけで、いざという時の“通報の質”が上がります。
通報の質が上がると、救命のスタートが前に出ます。
まとめ
119番のビデオ通話(映像通報)のメリットは、派手さではなく「確定が早いこと」です。
場所、状況、危険度、応急手当のやり方。これらが早く正確になるほど、現場の初動が強くなります。
一方で、映像より優先すべきは通報者の安全です。
安全を確保しつつ、使える場面で使う。これが一番現実的で、助かる確率を上げます。
出典
東京消防庁「映像を活用した口頭指導(Live119)」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/119/live119.html

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