津波が発生した際、到達予想時間までに安全な場所へ避難できない恐れがある地域は、国によって「避難困難地域」と定義されています。
朝日新聞の調査により、この地域に少なくとも28万4千人が暮らしていることが明らかになりました。
しかも、人数を把握していない自治体もあり、実数はさらに増える可能性があります。
これは、防災計画の数字ではなく、今この瞬間も暮らしている人の命の話です。
■① 「避難困難地域」とは何か
避難困難地域とは、
・津波到達までの時間が短い
・高台や避難ビルまでの距離が遠い
・高齢者や観光客が多い
などの理由から、徒歩での避難が間に合わない可能性が高い地域を指します。
東日本大震災を受け、国は最大クラスの津波を想定した避難計画の策定を自治体に求めてきましたが、現実には「逃げられない前提」で暮らす人が相当数存在しています。
■② 数字が示すのは「想定の限界」
28万人という数字は、
「対策が遅れている」というより、
従来の避難思想だけでは守れない人がいることを示しています。
被災地派遣で沿岸部の自治体に入った際、
「計画上は逃げることになっているが、実際には厳しい」
という声を、行政・住民双方から何度も聞きました。
これは机上の問題ではなく、現場が直面している現実です。
■③ 津波避難ビルは万能ではない
津波避難ビルは重要な対策ですが、
・収容人数の限界
・夜間や観光シーズンの混雑
・鍵や管理の問題
など、実運用では課題も多くあります。
LOとして避難計画の調整に関わった経験から言えば、
「建てたから安心」ではなく、
使えるかどうかを前提にした訓練と合意形成が不可欠です。
■④ 行政が言いにくい本音
多くの自治体が、
「全員が逃げ切れる対策を今すぐ整えるのは難しい」
という現実を抱えています。
そのため、
・人数を把握できていない
・具体策が示せない
という状況が生まれています。
しかし、被災地を見てきた立場から言えば、
言語化しないこと自体が最大のリスクになります。
■⑤ 「逃げる」以外の選択肢も含めた防災へ
避難困難地域では、
・高台への移転
・建物の耐津波化
・上階垂直避難
・自律型避難判断
といった複合的な対策が必要です。
実際の災害現場では、
「逃げなかった人」ではなく、
「逃げられなかった人」が犠牲になります。
この違いを正確に捉えることが、防災の出発点です。
■⑥ 住民との対話が不可欠な理由
専門家が指摘するように、
自治体と住民が率直に議論することが不可欠です。
・どこまでが現実的か
・何を優先するか
・誰がどの判断をするか
被災地派遣で感じたのは、
住民が現実を知っている地域ほど、判断が早いという事実です。
■⑦ 防災は「平等」ではなく「現実対応」
全員を同じ方法で守ることはできません。
だからこそ、防災は「公平」ではなく、現実に即した最適化が求められます。
避難困難地域の存在を認めることは、
諦めではなく、次の一手を考えるための第一歩です。
■⑧ 今日から考えたい視点
もし自分の地域が沿岸部なら、
・津波到達まで何分か
・高台まで何分か
・夜間や雨天でも同じ判断ができるか
一度、具体的に考えてみてください。
津波防災は、
「逃げる前提」だけでなく、
逃げられない現実をどう減らすかを考える段階に入っています。
■まとめ|数字の裏にある命を見失わない
28万人という数字は、統計ではありません。
一人ひとりの生活であり、家族であり、日常です。
結論:
津波避難困難地域の存在を直視し、逃げ切れない前提で命を守る対策へ進むことが、これからの防災です。
元消防職員・防災士として、
「現実を直視した地域ほど、助かる可能性が高い」
その光景を、被災地で何度も見てきました。

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