火災現場から戻ったあと、防火服に付着した煤(すす)をそのままにしていませんか。
被災地派遣、現場経験を通じて強く感じるのは、防火服の煤は「汚れ」ではなく「有害物質」だという事実です。
煤には、多環芳香族炭化水素(PAHs)をはじめとする発がん性物質が含まれており、洗浄が不十分なまま着用を続けると、消防士自身の健康を静かに蝕みます。
■① 防火服に付着する「煤」とは何か
煤は、建物火災などで物質が不完全燃焼した際に発生します。
この煤には以下のような有害物質が含まれます。
- 多環芳香族炭化水素(PAHs)
- 重金属類
- 揮発性有機化合物(VOC)
これらは皮膚から吸収されやすく、長期間の蓄積でがんや免疫障害のリスクを高めることが分かっています。
現場では見えない危険が、防火服に確実に残っています。
■② 消防士の健康リスクとしての「煤」
消防士の健康被害として指摘されている主なリスクは以下です。
- 肝臓がん・腎臓がん
- 呼吸器障害
- 免疫機能の低下
- 皮膚からの有害物質吸収
東京消防庁の検証でも、防火服に残留した煤が持続的な健康リスクになることが示されています。
特に注意すべきなのが、防火服素材に使われるPFAS(耐水・撥水剤)です。
PFASは「永遠化学物質」とも呼ばれ、分解されにくく、汗とともに皮膚を通過しやすい性質があります。
■③ 洗浄を怠ると何が起きるのか(現場の実情)
被災地派遣や長期出動の現場では、
- 「忙しくて洗えない」
- 「次の出動があるからそのまま」
という状況が起こりがちです。
しかし、防火服を汚れたまま着続けることは、
有害物質を自分の体に密着させ続ける行為と同じです。
現場では「見えない危険」が軽視されがちですが、健康被害は確実に蓄積していきます。
■④ 正しい防火服の洗浄・除染方法
● 現場での一次除染(出動直後)
- 水スプレーで煤を落とす
- 石鹸水で擦り洗い
- 胸部
- 肩
- 背中を重点的に
- 十分なすすぎを行う
この段階で二次汚染を大きく減らせます。
● 専用洗浄機での本洗い
- 約80℃の温水
- 防火服専用洗剤または中性洗剤
- 塩素系漂白剤は使用しない
- 洗浄後は十分乾燥
専用洗浄機による処理は、除菌・有害物質低減の両面で不可欠です。
● 脱衣・保管時の注意点
- 脱ぐ際に内側に触れない
- 素手で顔や首を触らない
- 洗浄後は清潔な場所で保管
ここを怠ると、洗った意味がなくなるケースもあります。
■⑤ 個人でできる追加対策(実践アドバイス)
- 火災出動後は必ず手洗い
- 首・顔・耳の後ろを重点洗浄
- ウェットワイプで簡易除染
- 防火服を生活エリアに持ち込まない
これは特別なことではなく、健康を守る最低限の自己防衛です。
■⑥ 行政や現場が言いにくい本音
消防士の健康管理は、
「自己責任」や「気合」で済ませてはいけません。
防火服の煤対策は、
- 職業性がん対策
- 長期的な労災予防
- 組織としての責務
という側面を持っています。
■まとめ|防火服の洗浄は防災であり命を守る行為
結論は明確です。
- 煤は汚れではなく有害物質
- 洗浄不足は健康リスクを高める
- 出動後の除染は「必須行動」
元消防職員・防災士として断言します。
防火服を洗うことは、次の現場に向かう準備であり、未来の自分を守る防災行動です。
火を消す仕事だからこそ、
自分の命と健康も、同じように守る必要があります。

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