近年、世界保健機関(WHO)が再び警戒を呼びかけているニパウイルス感染症は、アジア地域で周期的な発生が報告されています。感染症は地震や風水害と同じく、防災の枠組みで捉えることで、被害を抑える行動につなげることができます。
■① ニパウイルス感染症とは
ニパウイルス感染症は、1990年代後半に初めて確認されたウイルス性感染症です。自然宿主は果実を主食とするコウモリで、動物や汚染された食物を介してヒトに感染します。日本国内では、これまで患者の報告はありません。
■② 致死率40〜75%という数字の捉え方
ニパウイルスは致死率の高さが注目されがちですが、この数値は主に急性脳炎を発症した重症例を基にしたものと考えられています。不顕性感染や軽症例も存在するとされており、数字だけを切り取って過度に恐れる必要はありません。
■③ 感染経路と感染力の特徴
主な感染経路は次の通りです。
・コウモリが関与した動物や食品
・コウモリが汚染した生の果物や飲料
・血液や体液との濃厚接触
空気感染のように容易に拡大する感染症ではなく、エボラ出血熱ほど感染力は高くなく、SARSよりも感染経路は限定的とされています。
■④ 日本で流行しにくい理由と流入リスク
ニパウイルスは熱帯地域の生態系と深く関係しており、現状の日本の環境では定着しにくいと考えられています。一方で、バングラデシュ、マレーシア、インド南部などの流行地域からの渡航後に、国内で発症する可能性は否定できず、医療機関での早期把握が重要になります。
■⑤ 主な症状と重症化のサイン
潜伏期間は約4〜14日とされ、発熱、頭痛、嘔吐、筋肉痛などから始まります。重症化すると意識障害や痙攣、不随意運動を伴う急性脳炎に進行することがあり、初期症状が一般的な感染症と似ている点が特徴です。
■⑥ ワクチン・特効薬がない現状
現在、ニパウイルスに対するワクチンや特効薬は実用化されていません。治療は対症療法が中心で、治療薬やワクチンの研究開発が進められている段階です。
■⑦ 防災として考える予防行動
防災の視点では、次のような基本行動が重要です。
・流行地域で生の果物や未処理の飲料を避ける
・野生動物や家畜との不要な接触を避ける
・手洗い、マスクなど基本的な感染症対策を徹底する
感染症が話題になった際には、家庭でもマスクや消毒薬の備蓄状況を確認しておくと、落ち着いた行動につながります。
■⑧ 感染症も「複合災害」として備える視点
感染症は、災害後の避難生活と重なることで被害が拡大する可能性があります。避難所での集団感染防止や体調確認の仕組みづくりなど、感染症も複合災害の一要素として想定しておくことが減災につながります。
■まとめ|正しい理解が不安を減らす
ニパウイルス感染症は注意が必要な感染症ですが、日本で直ちに大流行するリスクは高くありません。
結論:
感染症も災害と同じく、正しく知り、冷静に行動することが命を守る防災行動です。
防災士としての現場経験からも、不安を煽るより「理解と判断力」を社会に蓄積していくことが重要だと感じています。
正しく知り、冷静に行動する力は、防災の未来を支える“社会の免疫”でもあります。
■出典
・世界保健機関(WHO)公開情報

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