学校で防災教育を工夫したいと思ったとき、取り入れやすい方法の一つが防災ボードゲームです。
ただ実際には、「遊びで終わらないか」「授業として意味があるのか」「どの学年に合うのか」と迷う教員は少なくありません。
結論から言えば、教諭向けの防災ボードゲーム導入で大切なのは、ゲームそのものを盛り上げることより、“何を考えさせたいか”を先に決めることです。
防災ボードゲームは、授業の主役というより、判断・対話・気づきを引き出すための道具として使う方が失敗しにくいです。
元消防職員としての感覚でも、防災教育で本当に差が出るのは「知識を聞いた量」ではなく、「自分ならどうするかを一度考えたことがあるか」です。
ゲームの強みは、正解を聞くだけではなく、迷う場面を安全に先回り体験できることにあります。
だから授業で取り入れるなら、“遊ぶ時間”より“考えが動く時間”を作る意識が大切です。
■① 最初に決めるべきは「何のために使うか」
防災ボードゲームを授業に入れる時に一番大事なのは、まず目的をはっきりさせることです。
例えば、次のような目的があります。
・災害時の判断を考えさせたい
・避難の優先順位を考えさせたい
・家族や地域の立場の違いを理解させたい
・防災授業の導入として興味を持たせたい
・訓練前の意識づけをしたい
ここが曖昧なまま導入すると、ゲームは盛り上がっても授業として何が残ったのかが見えにくくなります。
防災士として言えば、ボードゲームは“楽しい教材”ではありますが、目的を持たせないと記憶だけで終わりやすい教材でもあります。
■② 学校向けで使いやすいのは「判断型」と「対話型」
防災ボードゲームにはいろいろな種類がありますが、学校授業で使いやすいのは大きく2つです。
1つ目は、判断型です。
「この場面でどうする?」を選ばせるタイプで、地震、大雨、避難所生活などの判断練習に向いています。
2つ目は、対話型です。
代表例としてよく知られているのが「クロスロード」で、災害時の難しい判断をYES・NOで考え、理由を話し合う教材です。
こうした対話型は、答えを覚えるより、価値観や立場の違いに気づかせたい時に向いています。
授業で使うなら、派手なゲーム性より、短時間で問いが立ち上がるかを重視した方が使いやすいです。
■③ 導入のコツは「最初から全部やらない」こと
防災ボードゲームを初めて授業に入れる時は、フルセットで長時間やろうとしない方が安全です。
最初は、1テーマ、1場面、10〜15分程度でも十分です。
例えば、
・地震発生直後の行動だけを扱う
・避難するか待機するかだけを考える
・大雨時の下校判断だけを扱う
このように一つに絞ると、授業時間にも入れやすく、振り返りも深くなります。
元消防職員としても、訓練や教育で本当に効くのは“大きな一回”より“小さくても続く一回”です。
ゲーム導入も同じで、最初は小さく始めた方が定着しやすいです。
■④ ゲームの後に「なぜそうしたか」を言葉にさせると授業になる
防災ボードゲームが授業として強くなるかどうかは、実はゲームの後半で決まります。
ただ遊んで終わると、「楽しかった」で終わりやすいです。
そこで大切なのが、振り返りです。
たとえば、
・なぜその選択をしたのか
・ほかの人の考えで驚いたことは何か
・自分の家族ならどうするか
・今日の学びを実生活にどうつなげるか
こうした問いを短く入れるだけで、ゲームが防災授業へ変わります。
防災教育では、“正解を知る”だけでは弱いです。
理由を言葉にできると、場面が変わっても応用しやすくなるので、ここはかなり重要です。
■⑤ 教員の役割は「審判」ではなく「整理役」
防災ボードゲームを授業で使う時、教員が全部の正解を即座に示そうとすると、対話が止まりやすくなります。
特に判断型や対話型のゲームでは、答えが一つに決まらないこともあります。
そのため教員の役割は、審判というより、
・論点を整理する
・危険な誤解だけは修正する
・実際の防災行動へつなげる
・授業の最後に行動の軸を残す
といった整理役の方が向いています。
元消防職員として感じるのは、防災教育で本当に大事なのは「先生が全部説明すること」ではなく、「子どもが自分の判断に責任を持つ練習をすること」です。
その意味でも、教員はゲームを回す人であると同時に、学びを現実へつなぐ人である方が強いです。
■⑥ 学年によって向くゲームの形は違う
防災ボードゲームは、どの学年でも同じ形が合うわけではありません。
低学年なら、
危険探し
絵合わせ
簡単な順番づけ
のように、視覚的で短いものが向いています。
中学年なら、
「どうする?」を選ぶ型
グループで相談する型
が使いやすいです。
高学年や中学生なら、
クロスロードのような対話型
避難所運営や優先順位を考える型
が入りやすいです。
つまり、ゲーム選びでは内容の良さだけでなく、その学年で言葉にしやすいか、話し合いやすいかまで見た方が失敗しにくいです。
■⑦ 現場経験を入れるなら“怖さ”より“迷いどころ”を伝える
被災地派遣やLOの経験を授業に入れる時、防災ボードゲームとは相性が良いです。
ただし、強い被害の話をそのまま入れすぎると、怖さだけが残ることがあります。
入れるなら、
・早く動いた人の方が余裕があった
・家族で決めていた人の方が迷いにくかった
・避難所では立場の違いで考えが分かれる
・一見正しそうでも、状況で答えが変わる
といった、迷いどころや判断の難しさとして入れる方がゲームとつながります。
防災士として強く感じるのは、防災ゲームの価値は“こわい話を疑似体験すること”ではなく、“迷う場面で考える練習ができること”です。
■⑧ まとめ
教諭向け防災ボードゲームの導入で大切なのは、ゲームを盛り上げることではなく、「何を考えさせたいか」を先に決め、短時間で使い、必ず振り返りで理由を言葉にさせることです。
判断型や対話型のゲームは、防災授業の導入や訓練前の意識づけにかなり向いています。
ただし、最初から大きくやりすぎず、1テーマずつ小さく始める方が実践的です。
元消防職員として強く言えるのは、防災教育で本当に残るのは“楽しかった記憶”だけではなく、“自分ならどうするかを一度考えた経験”だということです。
迷ったら、まずは短い判断ゲームから。
その積み上げが、学校防災をかなり実践的なものにします。

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