昭和43年5月16日、襟裳岬の南東方沖を震源とするM7.9の大地震が発生し、北海道南部から東北北部にかけて広い範囲で強い揺れが観測されました。死者・負傷者、住宅被害に加え、火災も多数発生し、さらに「鉄筋コンクリートは強い」という当時の常識を揺さぶる被害が注目されました。
災害対応の現場で実感するのは、被害を拡大させるのは“地震の大きさ”だけではなく、「生活の中の弱点」と「思い込み」だということです。十勝沖地震の教訓は、今の家庭防災にも、そのまま活かせます。
■① 広範囲で揺れた地震は「備えの地域差」を露呈させる
この地震は北海道南部・青森県東部を中心に大きな被害を出し、体感としては広範囲で有感となりました。広域災害の怖さは、被災地が点ではなく面になることです。
- 人も資機材も、同時に不足しやすい
- 物流・燃料・通信など生活インフラの回復が遅れやすい
- 「隣の地域が助けに行けない」状況が起きる
被災地派遣やLOとして現場に入った時も、面で被災しているほど支援は遅れやすく、家庭の自助(最低72時間〜1週間)が効いてきました。
■② 津波が“少なかった”のは運ではない:条件で被害は変わる
この地震では津波も発生しましたが、干潮時で大きな被害が抑えられたとされています。ここで重要なのは、「津波が小さかった=安全」ではないことです。
- 同じ規模でも、潮位・地形・波の重なりで被害は変わる
- 過去に被害が小さかった経験が、次の判断を鈍らせる
防災は“前回の結果”ではなく、“今回の条件”で判断するのが基本です。
■③ 火災27件の多くが「石油ストーブ転倒」だった意味
この地震で特徴的なのは、出火原因の多くが石油ストーブの転倒だったことです。地震火災は「火種がある生活」ほど起きやすい。これは今も同じです。
- 揺れで転倒するものが、火災の起点になる
- 出火すると、避難・救助・消火が同時に必要になり混乱する
- 火災は“二次災害”として被害を増幅させる
元消防職員として現場で感じるのは、地震火災は「揺れの直後30秒〜数分」の行動で結果が変わりやすいということです。
■④ 今日からできる地震火災対策:ストーブ・暖房を“倒れない化”する
石油ストーブに限らず、暖房器具は転倒・可燃物接触・給油時のミスが重なると火災になります。やることは難しくありません。
- 周囲1mに燃えやすい物を置かない(洗濯物・紙・カーテン)
- 転倒しにくい配置にする(通路・出入口付近を避ける)
- 耐震マットや滑り止めで“動きにくく”する
- 揺れたらまず「火を止める」を家族ルールにする
被災地派遣の現場でも、火災が起きると復旧が一段止まります。家庭で火災を防げることは、地域全体の負担を減らします。
■⑤ “耐震神話”が崩れた:RC建築でも壊れるときは壊れる
十勝沖地震で注目されたのは、当時「強い」と信じられていた鉄筋コンクリート建築物にも深刻な被害が出たことです。ここが最大の学びです。
- 構造がRCでも、設計・施工・部材・経年で差が出る
- 壁量や耐力だけでなく、粘り強さ(靭性)が重要
- “倒れない”だけでなく、“壊れ方を制御する”発想が必要
災害現場で怖いのは、建物が一気に壊れることより、「部分的な破壊で避難経路が失われる」ことです。非常階段の損傷や出入口周りの破壊は、命に直結します。
■⑥ この地震が残した制度面の教訓:「靭性」が耐震の鍵になる
この地震以降、建築物の耐震性は“強さ”だけでなく“粘り(靭性)”が重要だと強調され、後の基準整備にもつながりました。防災の言葉で言えば、これは「壊れにくさ」と「壊れても致命傷になりにくい設計」です。
家庭側でできる現実策は、次の2つです。
- 自宅の築年・耐震性の確認(古いほど“想定外”が増える)
- 避難経路の確保(家具固定、階段・廊下の障害物排除)
■⑦ 迷ったらこの判断:建物より先に「逃げ道」を守る
建物の補強は費用も時間もかかります。迷ったら優先順位はこれです。
1) 寝室・出入口の安全確保(家具固定・落下防止)
2) 避難経路の確保(廊下・階段・玄関の確保)
3) 火の管理(暖房・調理・コンセント周り)
4) その上で耐震診断・補強を検討する
被災地派遣の現場でも、「逃げ道が確保されていた家」は、同じ揺れでも怪我が少なく、生活再建が早い傾向がありました。
■⑧ 今日できる最小行動:火と家具を“同時に”1つだけ直す
今日やるなら、これだけで十分です。
- ストーブ周りの可燃物をゼロにする(まず半径1m)
- 寝室の家具を1つ固定する(特にタンス・本棚)
- 玄関までの通路を確保する(床置きをやめる)
小さくても、確実に被害を減らす行動です。
まとめ
十勝沖地震が残した教訓は、地震は揺れだけで終わらず、火災や建物被害が連鎖して生活を壊すという現実です。特に、石油ストーブ転倒による出火の多さ、そしてRC建築物でも被害が出た事実は、「思い込み」を捨てて備えを更新する必要性を示しています。
結論:
地震の備えは「火を出さない」「逃げ道を守る」「壊れ方を想定する」。この3つを日常に落とし込むほど、被害は小さくできます。
被災地派遣・LO・元消防職員・防災士としての実感でも、結局助かった家庭は“特別な装備”より、生活の弱点(火と家具と動線)を潰していました。ここを整えるのが、いちばん堅い備えです。
出典
近代消防 昭和43年7月号(No59)資料(十勝沖地震の被害状況)
http://ff-inc.co.jp/wpmailmaga/archive_no59_a

コメント