停電や燃料不足が起きると、「車のガソリンを発電機に回せないか」と考える人がいます。
ただ、結論からいうと、一般の人が車の給油口からガソリンを抜いて使う判断は、災害時でも避けた方が安全です。
ガソリンは引火しやすく、消防庁も灯油用ポンプの使用は危険であり、運搬や保管には金属製の携行缶を使うよう注意を呼びかけています。
被災時は「使えるものは何とか使いたい」という心理になりやすいですが、危険物だけは発想を分けた方がいいです。元消防職員として現場感覚で言えば、ガソリンは“工夫で乗り切る対象”ではなく、無理をしない判断そのものが命を守る対象です。
■① 最初にどう判断すべきか
最初の判断はシンプルです。
車からガソリンを抜いて使う方向ではなく、抜かずに電気を確保できる方法を優先する。
災害時は焦りが強くなり、普段ならしない行動を取りやすくなります。
しかし、停電対策のつもりが火災事故につながってしまえば本末転倒です。防災で大事なのは、「できるかどうか」ではなく、家庭で安全にできるかどうかです。
■② なぜ給油口から抜くのが危険なのか
ガソリンの危険性は、こぼすことだけではありません。
- 蒸気に引火する
- 静電気で着火する
- 誤った容器に入れて事故につながる
- 周囲に火気がなくても危険が残る
消防庁は、東日本大震災の被災地で灯油用ポンプで車からガソリンを抜き取る光景が見られたとしたうえで、そのような行為は適切な安全対策がなければ危険だと示しています。あわせて、灯油用ポンプの使用や灯油用ポリタンクでの保管は避け、金属製の携行缶を用いるよう案内しています。
災害時は暗さ、疲労、焦りが重なります。
この条件で危険物を扱うのは、平常時よりさらに危険です。
■③ 昔の車の感覚で考えない方がいい理由
「昔はホースで抜けた」と聞くことがあります。
ただ、今の車は構造も安全思想も変わっています。そもそも一般の人が災害時に自己流で燃料を抜き取ることを前提にした作りではありません。
そのため、昔の体験談やネット上の断片的な情報をそのまま頼りにするのは危険です。
防災では、昔できたかどうかではなく、今の家庭で安全かどうかで判断する方が失敗しにくいです。
■④ 法律やルールの面でも軽く考えない方がいい
ガソリンは消防法上の危険物で、容器に入れて販売する際にも厳格な運用がされています。消防庁は、容器入りガソリン等の販売時に本人確認、使用目的の確認、販売記録の作成を求める取組を示しています。使用目的の確認例として「発電機用の燃料」も明記されています。
ここで大事なのは、
少量なら軽く扱っていいわけではない
という点です。
家庭防災では、法令の細かい境界を攻めるより、危険物は最初から安全側に倒す方が現実的です。
■⑤ 災害時に現実的な代替策は何か
車の燃料を抜くより、現実的なのは次のような備えです。
- 外部給電機能のある車を活用する
- 車載コンセントの有無を事前に確認する
- 停電時はポータブル電源や蓄電池を併用する
- 発電機を使う場合は、平時に安全な燃料備蓄方法を確認しておく
経済産業省は、電動車を災害時の移動式非常用電源として活用できると案内しており、令和6年能登半島地震の停電時にも外部給電機能を活用した事例に触れています。
つまり、今後の備えとして重視したいのは、
抜き取る技術ではなく、抜かずに電気を使える準備です。
■⑥ この記事で主軸にしたい考え方
このテーマで本当に大事なのは、「どう抜くか」ではありません。
- なぜ危険なのか
- なぜ一般家庭ではやらない方がいいのか
- 代わりに何を備えるべきか
防災情報は、知識があるほど細かい方法を書きたくなります。
ただ、読者に必要なのは危険な手順ではなく、迷ったときに事故を避ける判断軸です。
■⑦ 現場感覚として伝えたいこと
被災地では、電気も燃料も足りず、切迫した判断を迫られることがあります。
それでも、危険物を自己流で扱わないことは一貫して大事です。
元消防職員として強く感じるのは、
非常時ほど「できること」を増やすより、「やってはいけないこと」を守る方が大事
だということです。
家族がいる自宅周辺や避難生活中は、小さな火災でも被害が一気に広がります。
だからこそ、ガソリンは“工夫の対象”ではなく、“慎重さの対象”として扱う方が安全です。
■⑧ 今日からできる備え
今日からできる備えは、難しくありません。
- 自分の車に外部給電機能や100Vコンセントがあるか確認する
- 家庭の停電対策を発電機だけに依存しない
- 携行缶を使うなら消防庁の注意事項を確認する
- 災害時に危険物を自己流で扱わないことを家族で共有する
防災は、非常時の裏技を増やすことではなく、
危険を減らす準備を平時にしておくことです。
■まとめ
災害時でも、一般の人が車の給油口からガソリンを抜く判断はおすすめできません。
理由は、引火、静電気、蒸気、容器管理、運用ルールなど、危険が多すぎるからです。
本当に大事なのは、
「抜けるかどうか」ではなく、「抜かなくて済む備えをしているかどうか」
です。
停電対策として考えるなら、今後は
外部給電、車載コンセント、適切な携行缶、ポータブル電源
といった安全側の選択肢を優先した方が、信頼される防災につながります。

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