【防災士が解説】裁量労働制「見直し」議論の焦点|働き方は“命を守る力”にも直結する

裁量労働制の見直しが、働き方改革の議論で焦点になっています。裁量制は「仕事の進め方や時間配分を自分で決められる」一方で、「働き過ぎに陥りやすい」という懸念も強く、労使の主張は割れています。

防災の視点で見ると、このテーマは遠い話ではありません。災害対応でも日常でも、長時間労働が続くと判断が鈍り、事故やミスが増えます。働き方の制度設計は、個人の健康だけでなく、社会全体の安全性(危機対応力)にも影響します。


■① 裁量労働制とは何か(ポイントだけ)

裁量労働制は、実際に働いた時間ではなく、労使で決めた「みなし労働時間」を基に賃金が支払われる仕組みです。対象業務は限定され、現在の適用者は全体の2%未満とされています。

制度の意図は「自律的に働ける環境」で生産性を上げることですが、運用次第で“時間管理が曖昧になりやすい”という構造的な弱点も抱えます。


■② 見直し論の争点は「自由」と「歯止め」

見直し論が出る背景には、柔軟な働き方を広げたいという経済界の意向があります。いっぽう労働者側は、長時間労働を助長し、命と健康に悪影響を及ぼすリスクがあるとして強く警戒しています。

ここでの本質は、制度を広げるかどうか以前に、
「働き過ぎを確実に止められるか」
この一点に尽きます。


■③ “みなし”と“実労働”のズレが現場の不信を生む

裁量制の議論で必ず出るのが、「みなしより実際の労働が長い」という問題です。みなし時間が前提になると、忙しい局面で時間が伸びても、見えにくくなります。

現場の感覚としては、「成果が出るまで終われない」状態が続くと、本人も上司も限界に気づきにくい。結果として疲労が蓄積し、心身の故障や重大ミスにつながります。


■④ 防災の視点:長時間労働は“判断の精度”を落とす

被災地派遣やLOとして現場調整に入った時、強く感じたのは「疲労は、静かに判断を壊す」という現実です。

・確認が雑になる
・段取りが飛ぶ
・コミュニケーションが荒くなる
・小さな違和感を見逃す

これは災害対応だけでなく、平時の職場でも同じです。働き方の制度は、本人の自由度と同時に「安全に働ける歯止め」をセットで持たないと、社会の危機対応力まで弱くなります。


■⑤ “働かせ放題”と言われないために必要な条件

制度の是非より先に、運用の条件を詰める必要があります。

・業務量の適正化(成果=無限のタスクにならない設計)
・客観的な労働時間・稼働実態の把握(本人任せにしない)
・健康確保措置(面談、休息、一定時間での強制ブレーキ)
・不利益取り扱いの禁止(断れない空気を作らない)

裁量は「自己決定」が前提です。実態が“断れない裁量”なら、制度の名前だけが残ります。


■⑥ やらなくていい考え方

・「柔軟=良い」「規制=悪い」と単純化する
・制度だけ変えれば生産性が上がると思い込む
・個人の自己管理だけに責任を寄せる

制度は万能薬ではありません。運用が弱いと、副作用が先に出ます。


■⑦ 今日できる最小行動(制度の議論を“自分事”にする)

制度がどう変わっても、現場の安全は日々の小さな運用で守れます。

1) 今週の業務量を「終わる単位」に分割する
2) 退勤ライン(最低限の休息時間)を自分の中で固定する
3) 疲労サイン(睡眠、集中力、イライラ)を1つだけ記録する

防災も働き方も、結局は「壊れる前に止める仕組み」が勝ちます。


■⑧ まとめ|

裁量労働制の見直しは、柔軟な働き方を広げる可能性がある一方、長時間労働の歯止めが弱いままだと“健康と安全”のコストが膨らみます。防災の観点では、働く人の健康と判断力は社会の危機対応力そのものです。

結論:
裁量を広げるなら、同時に“確実に止める仕組み”を強くすることが前提。自由と安全はセットで設計すべきです。
被災地派遣・LO・元消防職員・防災士としての実感として、疲労は人を怠けさせるのではなく、静かに判断を壊します。制度の議論は、働く人の命と社会の安全の議論でもあります。

出典:時事通信(配信記事:裁量労働制の見直し焦点=働き方改革、高市首相が方針表明)

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