【防災士が解説】複合災害に備えると防災の見え方が変わる理由

災害というと、地震なら地震、豪雨なら豪雨というように、一つの災害を一つずつ考えがちです。もちろん、その考え方自体は間違いではありません。ただ、実際の災害現場では、一つの被害だけで終わらないことが少なくありません。地震のあとに火災が起きることもあれば、豪雨のあとに断水や停電が長引くこともあります。避難生活の中で感染症や熱中症のリスクが重なることもあります。

こうした、複数の危険や被害が重なって起きる状態が複合災害です。災害が重なると、被害が単純に二倍になるのではなく、判断の難しさや生活の負担が一気に増します。そのため、防災では「一つの災害に備える」だけでなく、「重なったときどうするか」を考えておくことがとても大切です。

防災士として感じるのは、複合災害を意識すると、防災の準備は一段深くなります。備蓄、避難、情報収集、家族との連絡、どれも“単独災害前提”では足りない場面があるからです。


■① 複合災害とは何か

複合災害とは、一つの災害に別の災害や障害が重なって、被害や対応の難しさが大きくなる状態をいいます。

たとえば、地震のあとに火災が広がる、台風のあとに停電と断水が長引く、大雨で避難した避難所で感染症や暑さ寒さの問題が起きる、こうしたものも複合災害として考えられます。自然災害だけでなく、インフラ障害や生活環境の悪化が重なることも重要です。

つまり、複合災害は「別々の災害がたまたま並ぶこと」ではなく、重なることで危険が増幅することに特徴があります。


■② 複合災害は“判断を難しくする”

複合災害が怖い理由の一つは、何を優先すべきかが分かりにくくなることです。

たとえば、大雨で避難が必要だけれど、外に出る道路が冠水している。地震のあとに停電し、家の外は危ないが、家の中にも家具転倒の危険がある。避難所へ行きたいが、感染症や寒さへの不安もある。こうした状況では、一つの正解だけでは動きにくくなります。

防災士として現場で見た“誤解されがちポイント”の一つは、「避難=とにかく避難所へ行くこと」と考えすぎることです。複合災害では、移動そのものが危険になることもあり、状況に応じて在宅避難や親族宅避難も含めた柔軟な判断が必要になります。


■③ 一つの災害で弱ったところに次の被害が重なる

複合災害では、最初の災害で地域や家庭が弱ったところに、次の問題が重なります。ここが特に危険です。

たとえば、地震で片付けや避難生活に疲れているところへ、猛暑が重なると熱中症の危険が高まります。豪雨で地域が疲弊している中で停電が続けば、情報収集も体温調整も難しくなります。断水が長引けば衛生状態も悪化しやすくなります。

被災地派遣やLOの経験でも、最初の災害そのものより、その後に重なる生活障害が現場を苦しくすることがありました。災害は終わったように見えても、生活の弱りが続いている間は次のリスクに弱くなります。これが複合災害の怖さです。


■④ 備蓄は“重なり”を意識すると考え方が変わる

複合災害を意識すると、備蓄の考え方も変わります。食料と水だけでは足りないことが見えてくるからです。

たとえば、停電が重なれば照明やモバイルバッテリーが必要です。断水が重なれば簡易トイレや衛生用品がより重要になります。避難生活が長引けば、着替え、寒さ対策、暑さ対策、常備薬、心の負担を減らす物も必要になります。

防災士から見た実際に多かった失敗の一つは、「一つの災害だけを想定した備蓄」で止まっていたことです。複合災害を考えると、備蓄は“生きのびるため”だけでなく、“生活を壊しにくくするため”の備えだと分かりやすくなります。


■⑤ 避難先も一か所だけで考えない

複合災害では、避難所に行けば必ず安心とは限りません。避難所までの道が危ないこともあれば、避難所そのものが混雑や暑さ寒さ、衛生面の課題を抱えることもあります。

そのため、防災では避難先を一つだけで考えないことが重要です。指定避難所、自宅の上階、親族宅、知人宅、ホテルなど、状況に応じて選べるようにしておくと判断しやすくなります。

自律型避難の大切さもここにあります。行政の情報を待つだけでなく、自分たちの家族に合う避難先を事前に複数考えておくことで、複合災害時の迷いは減ります。


■⑥ 情報収集は“単一情報源”では弱い

複合災害では、情報の取り方も重要です。一つの情報源だけに頼ると、停電や通信障害、誤情報の影響を受けやすくなります。

テレビだけ、スマホだけ、SNSだけという状態では、必要な情報にたどり着きにくいことがあります。気象情報、自治体情報、ハザードマップ、ラジオ、家族との連絡手段などを組み合わせておくと、情報の抜けを減らしやすくなります。

防災士として感じるのは、複合災害では“情報の多さ”より“情報の分散”が安心につながるということです。複数の入口を持っておくことが、判断を支える力になります。


■⑦ 家庭防災は“生活再建”まで見ておくと強い

複合災害を考えると、防災はその日をしのぐだけでは足りないことが見えてきます。片付け、仕事、通学、買い物、通院、家族の世話など、生活全体に影響が広がるからです。

だからこそ、家庭防災では「避難できるか」だけでなく、「その後の生活をどうつなぐか」まで考えておくと強いです。現金、充電手段、予備薬、生活用品、移動手段、家族の役割分担など、平時から少し整理しておくだけで負担は変わります。

防災士として感じるのは、複合災害に強い家庭は、特別な装備が多い家庭ではなく、生活の弱点を知っている家庭だということです。何が止まると困るのかを知っているだけで、備えは具体的になります。


■⑧ 複合災害を意識すると“やるべきこと”が現実的になる

複合災害と聞くと、難しそうで不安になる人もいるかもしれません。ただ、考え方はそこまで複雑ではありません。

一つ目は、災害は重なることがあると知ること。二つ目は、自分の家庭で何が重なると弱いかを考えること。三つ目は、その弱点を一つずつ減らすことです。

たとえば、停電に弱いなら照明と充電手段を整える。断水に弱いなら水と簡易トイレを増やす。避難先が一つしかないなら第二候補を決める。こうした積み重ねが、複合災害への備えになります。難しく考えすぎず、生活の穴を埋める感覚で進めることが大切です。


■まとめ|複合災害を知ると防災はもっと現実的になる

複合災害は、複数の危険や生活障害が重なることで、被害や判断の難しさが増す災害の形です。一つの災害だけを想定した備えでは足りない場面があり、備蓄、避難先、情報収集、生活再建まで含めて考えることが重要になります。

大切なのは、怖がることではなく、「何が重なると自分たちは困るか」を具体的に考えることです。そこが見えると、防災は一気に現実的になります。

結論:
複合災害への備えとは、災害が重なったときに生活と判断が止まりにくい状態をつくることです。
現場感覚としても、被害を大きくするのは一つの災害そのものだけでなく、その後に重なる停電、断水、疲労、情報不足などでした。だからこそ、防災は単発ではなく、重なりに耐える備えが大切だと感じます。

出典:
内閣府「事前防災・複合災害ワーキンググループ提言」

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