森林は、ただの緑ではありません。
土砂災害を防ぎ、水を蓄え、空気を整え、私たちの暮らしを静かに守る「巨大な防災装置」です。
この記事では、防災の視点から「森林の多面的機能」を整理し、なぜ林野火災や森林荒廃が“生活リスク”に直結するのかをわかりやすく解説します。
■①森林は“天然のダム”|水をため、洪水を和らげる
森林の土壌はスポンジのように水を吸収します。
研究では、森林の浸透能は裸地や草地と比べて圧倒的に高いことが示されています。
浸透能(mm/1時間)の比較
・裸地:79
・草地:128
・森林:258
森林があることで、雨水は地面に浸透し、急激な河川増水を抑えます。
これが「洪水緩和」や「水資源貯留」といった水源涵養機能です。
貨幣評価(年間)では、
・洪水緩和:約6.5兆円
・水資源貯留:約8.7兆円
・水質浄化:約14.6兆円
数字は仮定条件付きとはいえ、規模感は圧倒的です。
■②土砂災害を防ぐ“根の力”
森林の根は、斜面をつかみ、土壌を固定します。
評価例(年間)
・表面侵食防止:約28.3兆円
・表層崩壊防止:約8.4兆円
林野火災で森林が失われると、数年後に土砂災害が増えるケースがあります。
私が災害派遣(LO)で現地調整に入った際も、過去に山林被害を受けた地域で二次被害リスクが高まっていました。
森林の消失は「その年」だけの問題ではありません。
数年スパンで地域の防災力を下げます。
■③CO₂吸収と気候緩和|見えないが確実な防災
森林は二酸化炭素を吸収します。
評価例(年間)
・CO₂吸収:約1.2兆円
・化石燃料代替エネルギー:約0.2兆円
さらに、
・気温緩和
・大気浄化
・快適生活環境形成
これらはヒートアイランド対策や熱中症リスク低減にもつながります。
防災は「災害対応」だけではありません。
“災害を起こしにくい環境をつくること”も含まれます。
■④生物多様性と地域文化を守る
森林は
・生物種保全
・遺伝子保全
・生態系保全
さらに、
・景観
・教育
・伝統文化
・祭礼
といった文化的基盤でもあります。
森林の多面的機能は、貨幣評価可能な一部だけでも年間約70兆円規模とされています。
数字以上に重要なのは、
「失ってからでは戻らない」という点です。
■⑤林野火災は“国土防災の破壊”である
林野火災が起きると、
・保水力が低下
・表土流出
・斜面崩壊リスク上昇
という連鎖が起きます。
元消防職員として現場に立った経験から言えるのは、
火は“消えた後”のほうが長い影響を残すということです。
鎮火=終わりではありません。
そこから「地域の防災力の低下」が始まります。
■⑥今日できる森林防災行動
難しいことは不要です。
・乾燥・強風時は屋外で火を使わない
・たき火後は完全消火を確認
・山際の落ち葉・枯草を放置しない
・火災注意報・警報を確認する
防災は大きな装備より、日常の判断で決まります。
■まとめ|森林は“静かな防災インフラ”
森林の多面的機能は、
水を守り、土を守り、空気を守り、命を守ります。
そしてそれは、
災害が起きてからではなく、
起きる前から私たちを守り続けています。
防災とは、
「火を消すこと」だけではなく、
「森を守ること」でもあります。
今日ひとつだけ。
乾燥と風が強い日は、屋外で火を使わない。
それが、70兆円の価値を守る第一歩です。
出典:日本学術会議答申
「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的機能の評価について」(平成13年11月)

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