「治山(ちさん)」という言葉は、都市で暮らす多くの人にとって馴染みが薄いかもしれません。
しかし、日本の国土の約3分の2は森林で覆われ、その多くが急峻な山岳地形です。
私たちの安全な暮らしは、実はこの“山と森”によって日常的に支えられています。
近年、豪雨災害や土石流、洪水が頻発していますが、その被害を抑える根幹にあるのが治山です。
■① 治山とは「災害を未然に防ぐインフラ」
治山とは、単に山に木を植えることではありません。
- 樹根による斜面の固定
- 落葉・落枝がつくる豊かな土壌
- 雨水を一気に流さず、地中に浸透させる機能
これらが組み合わさることで、
土砂災害や洪水の発生リスクを大きく下げています。
都市化が進んでも、森の防災機能は決して「時代遅れ」ではありません。
■② 森林は「巨大な防災装置」
森林は、日常的に次のような役割を果たしています。
- 豪雨時の急激な水流を緩和
- 土壌流出を防止
- 気温上昇を抑制
- 生態系の循環による地盤安定
特に樹根と土壌の働きは、
コンクリート構造物では代替できない防災力です。
■③ 保安林制度の役割と限界
日本では森林法に基づき、
防災上重要な森林を「保安林」に指定し、
- 伐採規制
- 開発行為の制限
- 植栽義務
が設けられています。
この制度は、明治時代の大水害を契機に整備され、
国土荒廃を防ぐうえで大きな役割を果たしてきました。
■④ 問題は「画一的な植栽義務」
現在の保安林制度では、
伐採後にスギ・ヒノキなどを一定本数以上植栽する義務があります。
しかし、この考え方は、
- 単一樹種の人工林(モノカルチャー)
- 生物多様性の低下
- 病害虫や気候変動への弱さ
といった問題を抱えています。
■⑤ 防災の観点で優れる「天然更新」
近年の森林科学では、
天然更新(自然に森が再生する力)の重要性が明らかになっています。
- 多様な樹種が混在
- 病害虫に強い
- 土壌流亡が起きにくい
- 維持管理コストが低い
高温多雨の日本では、
土壌があれば森林は自然に再生します。
「何もしない」のではなく、
自然の力を活かす“立派な施業”です。
■⑥ 天然林は防災+資源の両立が可能
天然更新による森林は、防災だけでなく、
- 多様な木材資源の可能性
- 花粉症対策
- 長期的な森林価値の向上
にも寄与します。
スギ・ヒノキ一辺倒の再造林より、
将来の不確実性に強い選択と言えるでしょう。
■⑦ 今、見直すべきは制度のほう
治山の目的は「木を植えること」ではなく、
国土と人命を守ることです。
その視点に立てば、
- 植栽義務の見直し
- 天然更新優先への転換
- 危険箇所のみ施設整備
といった柔軟な制度改正が必要です。
■⑧ まとめ|豪雨時代の防災は「森から始まる」
都市に住んでいても、
私たちは常に山と森の恩恵を受けています。
- 洪水を防ぐ
- 土砂災害を抑える
- 暮らしの安全を支える
治山は、
最も地味で、最も重要な防災インフラです。
時代に合わせて制度を進化させることが、
これからの豪雨災害に立ち向かう鍵となります。

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