大規模災害が発生すると、必ずと言っていいほど聞かれるのが「なぜ自衛隊はすぐ来ないのか」という声です。テレビやSNSでは派遣要請の遅れが問題視されることもありますが、その背景には制度上・現場上の明確な理由があります。防災の現場に関わる立場から、自衛隊派遣要請の現実を整理します。
■① 自衛隊は「勝手に動けない」組織
自衛隊は非常に高い即応力を持っていますが、法律上、原則として自治体からの要請がなければ災害派遣はできません。これは文民統制と地方自治を守るための重要な仕組みです。
■② 派遣要請は知事の権限
災害派遣要請は、原則として都道府県知事が行います。
・市町村長は直接要請できない
・まず県に被害報告を上げる
・県が全体状況を見て判断
このプロセスが必要になります。
■③ 発災直後は「判断材料」が足りない
発災直後、自治体は次のような状況に陥ります。
・通信障害で被害が把握できない
・職員自身が被災
・情報が錯綜する
この段階で「どの部隊を、どこへ、何の目的で」派遣するかを決めるのは極めて困難です。
■④ 実は水面下では動いている
誤解されがちですが、要請前でも自衛隊は以下を行っています。
・情報収集
・部隊待機
・装備点検
・進出準備
正式要請と同時に動けるよう、事前行動は進められています。
■⑤ 自衛隊は万能ではない
自衛隊は魔法の存在ではありません。
・道路が寸断されれば進めない
・夜間や悪天候では活動制限がある
・人員にも限界がある
過剰な期待は、現場の負担を増やします。
■⑥ 市町村・県・国の役割分担
災害対応は段階的です。
・初動:市町村
・広域調整:都道府県
・国家的対応:国・自衛隊
この役割分担が崩れると、支援は混乱します。
■⑦ 要請が遅い=怠慢ではない
派遣要請が慎重になるのは、
・無駄な派遣を避ける
・他地域の即応力を残す
・長期戦に備える
ためでもあります。批判されがちですが、合理的判断です。
■⑧ 住民が理解すべき防災視点
住民側に求められるのは、
・最初から自衛隊を当てにしない
・初動は自助・共助
・支援は後から来るもの
という現実認識です。
■まとめ|「来ない」のではなく「備える」が先
自衛隊は必ず来ます。しかし、来るまでの時間をどう耐えるかが命を分けます。
結論:
自衛隊派遣は最後の切り札。最初に命を守るのは自分の備えである。
防災士として被災地に立つたび、「自衛隊が来るまで耐えられたかどうか」が明暗を分けていました。派遣要請の遅れを責めるより、備えを整えることこそが、現実的な防災です。

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