「防災用にテントを買ったほうがいいですか?」という相談は年々増えています。かつてテントは“趣味の道具”という扱いでしたが、熊本地震や東日本大震災、そしてコロナ禍を経て、「避難生活の質」と「分散避難」の選択肢として現実味を帯びました。
ただし、テントは買っただけでは役に立ちません。そこで本記事では、キャンプの趣味がない人でも判断できる“導入基準”を、防災の視点で整理します。
■① まず押さえるべき「避難生活の拠点」は5つ
災害後の生活拠点は、だいたい次の5つに集約されます。
車、テント、実家・親戚・知人宅、宿泊施設・賃貸物件、避難所。
テントは「逃げるため」ではなく、生き延びた後の“生活の場”を補う道具です。仮設住宅は早くても数週間かかるため、発災直後の数日〜数週間をどう過ごすかが判断の核心になります。
■② テントが必要になる人の特徴
テントが役に立ちやすいのは、次の条件が重なる人です。
避難所生活への不安が強い、家族に小さな子どもや要配慮者がいる、ペットがいる、プライバシーがないと体調を崩しやすい、衛生面を自分で確保したい。
避難所は状況次第で密度もストレスも大きく変わります。短期間でも「個室」を作れる価値は大きく、睡眠・着替え・授乳・体調管理の質が変わります。
■③ 都市部ほど「避難所不足」と相性が良い
人口が多い地域ほど、避難所は不足しやすく、過密になりやすい傾向があります。
大災害では帰宅困難者も重なり、避難所に人が流入して混乱が増幅します。こうした地域では、テントは分散避難の“逃げ道”として検討する価値があります。
■④ ハザードマップで「自宅が戻れる想定か」を見極める
テント導入の大前提は、「自宅が使用不能になっても、一定期間で戻れる見込みがあるか」です。
津波で流失する、長期浸水が続く、土砂崩れで立ち入り不能などの想定なら、テントだけで解決しません。一方で、短期の床上浸水や余震で一時的に住めないなど、“戻れる前提の避難”なら、テントは現実的な選択肢になります。
■⑤ 自宅の耐震性が低いなら、テントより先にやることがある
建物が全壊リスクの高い状態なら、テント計画より先に「命を守る対策」が優先です。
耐震診断や、家具配置の見直し、寝室の安全確保などが先になります。テントは“生き延びた後に効く装備”なので、土台(住まいの安全)が弱いと意味が薄れます。
■⑥ 孤立リスクが高い地域は「長期戦」前提で考える
道路寸断や通信断で孤立しやすい地域では、公的支援が届くまで時間がかかります。
この場合、テント単体ではなく、食料・水・トイレ・寒暖差対策まで含めた“避難生活セット”が必要になります。導入判断は「テントを買うか」ではなく「自助力を何日分持つか」で考えるのが正解です。
■⑦ テントの価値は「寝る場所」より「プライバシー空間」
テントの本当の強みは、野営ではなく“遮蔽”です。
トイレ、授乳、着替え、身体拭き、簡易トイレの利用など、避難生活で「人目があるとできないこと」を可能にします。
防災用途なら、遮光性が高く中が透けにくいタイプを優先し、難しい場合は遮光シートで補う発想が有効です。
■⑧ 欠点を理解できる人ほど、テントは武器になる
テントには欠点もあります。
風雨に弱い、防犯が難しい、設営場所が限られる、夏冬の寒暖差が厳しい。
だからこそ「どこに張るか」「悪天候時はどうするか」「貴重品の扱い」「防寒・防暑の補助装備」をセットで考えられる人ほど、テントは強い選択肢になります。
避難所でもテント泊や車中泊の受け入れが進んでいますが、運営に支障が出ないよう事前に自治体の方針を確認し、当日の自己判断で無秩序に持ち込まない配慮も必要です。
■まとめ|テントは「趣味の道具」ではなく「分散避難の保険」
テントが必要かどうかの結論は、キャンプ経験の有無では決まりません。
決め手は「避難生活の拠点が不足したとき、自分の家族の生活をどう守るか」です。
結論:
テントは“避難所に入れない・入りたくない”状況に備える、分散避難の保険。導入するなら「設営練習」と「衛生・寒暖差・防犯」までセットで考える。
防災士として現場を見て痛感したのは、避難生活で人を追い詰めるのは「情報」や「物資不足」だけではなく、プライバシーの欠如と衛生悪化です。テントはその弱点を補う数少ない道具のひとつです。

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