地震・豪雨・停電などで避難所が開設されると、必ず問題になるのが
「身体障害者が安心して使えるトイレが整っていない」
という現実です。
段差・狭さ・汚れ・混雑──多くの避難所では、通常の簡易トイレは身体障害者には使いにくく、重大な事故につながることがあります。
ここでは、防災士として現場で必要だと感じた“身体障害者に対応した簡易トイレ対策”をまとめます。
■なぜ身体障害者は避難所トイレで困るのか?
・通常の簡易トイレは“入口が狭い”
・段差があり、車いすが入れない
・手すりがないため転倒リスクが高い
・中が暗く、視覚障害者は危険
・臭気が強く、長時間使えない
・短時間で立ち座りできない
・付き添い介助が前提になる
身体障害者にとって“トイレに行けない”というのは命に関わる問題です。
■避難所の簡易トイレで実際に起きるトラブル
・車いすごと入れず介助者が持ち上げる
・便座が不安定で転倒
・握る場所がなく姿勢が保てない
・夜間は暗く、移動自体が危険
・行列に並べないため我慢してしまう
・汚れていて使えない
・においで体調を崩す
“使えないトイレ”は実質的に“トイレがない”のと同じ。
■身体障害者対応の簡易トイレに必要な要件
① 車いすが入る横幅(最低80〜90cm)
② 入口の段差なし(スロープ必須)
③ 室内で転回できるスペース
④ 2カ所以上の手すり
⑤ 夜間用の小型ライト
⑥ 換気・におい対策
⑦ 介助者が一緒に入れる広さ
一般的な簡易トイレでは“ほぼ不可能”なレベルです。
■すぐにできる改善策(避難所で用意できるもの)
① 段ボールでスロープを作る
→ 数分で設置可能
→ 車いすの出入りが大きく改善
② 手すり代わりにパイプ椅子・棒・突っ張り棒
→ 体を支えるだけで安全性が大幅アップ
③ プライバシーテントを“障害者専用トイレ”にする
→ 室内広め・段差なし
→ 携帯トイレと組み合わせると最強
④ 簡易照明を設置
→ 夜間の事故防止に必須
⑤ トイレマットや段ボールで床を平らにする
→ つまずき事故の予防
■歩行困難者に最適な“座位型携帯トイレ”
歩行が困難な人には固定式の椅子型トイレが最適。
・座ったまま排泄可能
・安定した姿勢で安全
・凝固剤で処理が簡単
・ベッド横に設置できる
・夜間移動が不要
避難所では“移動しないトイレ”が最も事故を防ぐ。
■車いす利用者に向いているトイレ環境
・広めのテントを専用スペースに
・スロープ + 手すり
・介助者用スペースを隣に確保
・扉はカーテン式(開閉が楽)
・使用後の袋は二重にして処理
時間がかかるため、行列に並ばせるのは危険。
■視覚障害者のトイレ対応
・床にガイドテープを置く
・触ってわかる印(タオル・紐など)
・入室後の配置説明を明確に
・段差・突起物は必ず取り除く
“触覚でわかる動線”が安心につながる。
■災害時に身体障害者が準備しておくべきもの
・携帯トイレ(1日3〜5回分)
・消臭袋
・凝固剤
・小型ライト
・ウェットティッシュ
・折りたたみ式手すり(あれば理想)
・防水シート
・オムツ・パッド(必要な人)
避難所では「自分で備える」が命を守る。
■介助者が気をつけるポイント
・焦らせない
・立ち座りをサポート
・夜間は必ず同行
・汚れても責めない
・プライバシーを尊重する
・転倒リスクがある床は避ける
“心の安心”もトイレの大事な要素。
■まとめ
身体障害者のトイレ問題は、災害時もっとも深刻な課題の1つです。
段差・狭さ・手すり不足・行列──通常の簡易トイレは対応が十分ではありません。
しかし、
・スロープの設置
・プライバシーテント利用
・座位型携帯トイレ
・手すりの代用品
などの工夫で、短時間で安全な環境を整えることができます。
身体障害者にとって、安全に排泄できることは“命の継続”に直結します。
避難所運営でも、家族の備えでも、“最優先”で対応したい分野です。

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