【防災士が解説】「土砂埋没掘削」── 土砂災害で生き埋めになった人を救う“時間との戦いの救助技術”

豪雨・土石流・地すべりが発生すると、
人が 土砂・流木・石・岩塊 に一気に埋まり、
数分で呼吸困難に陥る極めて危険な状況になります。

このような現場で行われるのが
「土砂埋没掘削(どしゃまいぼつ くっさく)」
という救助です。

消防では 土砂災害救助の中心技術 として位置付けられています。


■ 専門用語では何と言う?

土砂に埋まった人を掘り出す救助は、救助の分野では

✔ 「土砂災害救助」

✔ 「掘削救助(くっさくきゅうじょ)」

✔ 国際救助では 「Surface Rescue(地表救助)」

と分類されます。

特に「掘削救助」は現場でよく使われる正式名称です。


■ なぜ“掘削”と呼ぶのか?

土砂災害では

  • 完全埋没
  • 半埋没(上半身だけ露出)
  • 流木や石に押し潰されている

など状況が様々。

共通しているのは
人を“掘り出す”作業 が必ず必要になるため
「掘削救助」と定義されています。


■ 土砂埋没掘削で使う主な器具

状況により使い分けます。


● ① 基本工具(手作業が中心)

  • スコップ
  • 小型ショベル
  • ツルハシ
  • つるはし
  • 手掘りスコップ
  • スコップ改良型(先細)

→ 最終的には 素手で土を払う のが基本(傷つけないため)。


● ② 土砂を“安定化”させる器具

  • 支柱(ショアリング)
  • コンパネ(合板板)
  • 土のう
    → 周囲の斜面・土砂が崩れて二次埋没するのを防ぐ。

● ③ 重機(バックホー・ユンボ)

大規模埋没の場合、
消防と重機オペレーターが連携して掘り進める。

※重要

重機は「仕上げ3m〜2m」までは使用。
最後は 手作業で丁寧に掘る


■ 土砂埋没救助の最大の危険:二次埋没

土砂災害救助では、
救助者自身が新たな土砂崩落に巻き込まれる可能性が非常に高い。


【危険ポイント】

✔ 斜面上部の不安定土砂
✔ 流木がバランスを崩して落下
✔ 大きな石の下に空洞があり突然落ちる
✔ 水が流れ込み、土砂が一気に動く
✔ 埋没者を掘った穴が崩れて埋め戻す

→ これらを防ぐために
「掘る前に安定化」 が鉄則。


■ 代表的な掘削手順(現場で使われる流れ)


① 埋没者の位置を特定

声・叫び・熱源装置・見えている体の一部で判断。


② 周囲の土砂を安定化(最重要)

支柱・コンパネで落ちてこないよう固定。


③ 重機で“粗掘り”

大きな土砂を大まかに取り除く(ただし慎重に)。


④ 手掘りで“細掘り”

スコップ → 小スコップ → 手 → 素手
“要救助者を絶対に傷つけない”技術。


⑤ 体を損傷しないよう除去

呼吸を確保しつつ、
胸・腹・首周りの土砂を最優先で取り除く。


⑥ 搬送

担架・布担架・ロープでの引き上げなど状況による。


■ 埋没者の医学的リスク


● ① 呼吸不全(窒息)

数分で危険。
特に胸部圧迫は極めて危険。


● ② クラッシュ症候群

胸・脚が長時間圧迫されると
血流再開時に腎不全やショックを起こす。


● ③ 低体温

濡れた土砂は体温を奪う。


● ④ 外傷

石・流木・貫通物などの外傷が多い。


■ 一般の人が土砂掘削をしてはいけない理由

✔ 二次崩落の危険が大き過ぎる
✔ 埋没者を傷つける
✔ 重機の操作は高度
✔ 支柱(ショアリング)が素人ではできない

家の近くの土砂でも、
非常に危険なので絶対に手を出さない方が良い


■ まとめ

土砂埋没掘削は、
豪雨や土石流で埋まった人を救うための高度な救助技術。

  1. 専門名称は 土砂災害救助/掘削救助
  2. 最初の作業は“掘削前の安定化”
  3. 最後は必ず“手”で掘る
  4. 二次埋没が最大の危険
  5. 医学的にも窒息・クラッシュ症候群が問題
  6. 一般市民は絶対に無理せず消防を呼ぶ

生存時間が短い“究極の救助”であり、慎重さとスピードが求められる分野です。

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