阿蘇山中岳の火口周辺は、訪日観光客にとって全国屈指の人気スポットです。
なかでも、火口を上空から間近に見られる遊覧ヘリコプターは、阿蘇観光の“目玉”とされてきました。
しかし2026年1月、その象徴的な観光コンテンツの現場で、ヘリコプター墜落事故が発生しました。
■① 「安全」と認識されてきた火口上空
阿蘇山中岳は活火山ですが、噴火警戒レベルは1。
地上は火山ガス次第で立ち入り規制がかかる一方、上空の飛行は「気象条件を満たせば危険ではない」とされ、遊覧ヘリが日常的に運航されてきました。
そのため、行政や観光関係者の間でも
「火口周辺の飛行自体が危険」という認識は、必ずしも共有されていなかったのが実情です。
■② 無人機は禁止、有人機は対象外という制度の隙間
中岳火口周辺1km圏内では、
・ドローン
・無人航空機
の飛行は原則禁止されています。理由は「墜落時の回収困難性」です。
一方で、有人ヘリコプターは規制対象外となっており、観光目的の遊覧飛行が継続されてきました。
今回の事故は、この制度上の“前提”そのものに疑問を投げかけています。
■③ 観光地ゆえに見落とされやすい複合リスク
火山地域の遊覧飛行には、以下のリスクが複合的に存在します。
・火山ガスの急変
・上昇気流や乱気流
・視界不良
・緊急時の救助困難性
観光地としての「日常性」が高まるほど、
これらのリスクが“特別なものではない”と錯覚されやすくなる点が、防災上の大きな課題です。
■④ 救助活動も「火山ガス」との戦いに
今回、機体が発見されたのは中岳第1火口北側斜面。
救助活動は、火山ガス濃度を確認しながら慎重に行われる見通しです。
これは、
・事故後の対応すら自然条件に左右される
という、火山地域特有の厳しさを示しています。
■⑤ 観光防災で重要な「想定の更新」
噴火警戒レベルが低い=安全
観光として定着している=リスクが小さい
こうした認識は、防災の視点では常に更新が必要です。
特にインバウンド観光が増える中、
・外国人観光客へのリスク説明
・事業者側の安全基準
・行政のガイドライン
これらを一体で見直す必要があります。
■⑥ 現場経験から見た“行政が言いにくい本音”
災害対応の現場では、
「前例があるから大丈夫だった」
「これまで事故がなかった」
という判断が、最も危険になる場面を何度も見てきました。
自然条件が相手の分野では、
事故が起きていないこと=安全の証明ではない
という視点が欠かせません。
■⑦ 観光と安全は対立しない
安全対策の強化は、観光の衰退を意味するものではありません。
むしろ、
・安全性が明確に説明されている
・リスクが正直に共有されている
こうした観光地ほど、長期的な信頼を得ます。
■⑧ まとめ|「想定外」を前提にする防災へ
阿蘇の遊覧ヘリ墜落事故は、
観光、防災、航空、火山という複数分野が交差する場所で起きました。
今後求められるのは、
・制度の再点検
・リスク想定の更新
・「大丈夫だった過去」からの脱却
自然と共存する観光地だからこそ、
想定外を想定する防災が必要です。
この事故を「まさか」で終わらせないことが、次の命を守ることにつながります。

コメント