大規模災害が発生すると、避難者だけでなく、避難所を運営する自治体職員自身も被災者になります。この現実を直視し、避難生活の質をどう守るかが、今後の防災における重要なテーマです。
熊本地震から10年を迎える中、災害関連死を減らすための考え方として広がってきた「TKB48」。その提唱者である一般社団法人「避難所・避難生活学会」代表理事・水谷嘉浩氏の提言から、これからの避難所支援の在り方を整理します。
■① TKB48とは何か
TKB48とは、災害発生から48時間以内に避難所の基本環境を整えるという考え方です。
- T:トイレ
- K:キッチン(温かい食事)
- B:ベッド(雑魚寝を解消)
これらを早期に整備することで、避難者の健康と尊厳を守り、災害関連死を防ぐことを目的としています。
■② 災害関連死を減らすという原点
東日本大震災以降、避難生活そのものが原因となる「災害関連死」が大きな課題となりました。段ボールベッドの普及や避難所環境の改善は、その反省から生まれた取り組みです。
水谷氏は「どんな災害でも一定の質を保った避難生活を提供できる仕組みがなければ、関連死はなくならない」と指摘しています。
■③ 法制度の変化と転換点
近年、災害対策基本法や災害救助法が改正され、福祉の視点が初めて明確に位置付けられました。
- 在宅避難
- 車中泊避難
- 広域避難
避難所に来た人だけでなく、「被災者という人」に焦点を当て、見守り・支える発想へと転換が進みつつあります。
■④ TKB48を進化させる「SUM基準」
大規模災害では、被災自治体だけでの対応は不可能です。そこで提唱されているのが、TKB48を進化させるSUM基準です。
- S:Standard(標準化)
全国どこでも同じ仕様で使える資機材 - U:Unit(ユニット化)
トイレ・ベッド・食事・運営人員を一体化 - M:Mobility(機動力)
迅速に被災地へ投入できる体制
これにより、外部支援を前提とした避難所運営が可能になります。
■⑤ 自治体職員も被災者という現実
熊本地震や能登半島地震では、自治体職員自身も被災者となり、通常業務や復旧対応と避難所運営を同時に担う限界が明らかになりました。
そのため、
- 「国や県が資機材を送るだけ」
ではなく、 - 「外部の専門チームが避難所運営まで担う」
という発想転換が必要だと指摘されています。
■⑥ ユニット方式という具体像
提案されているモデルでは、
- 避難者 250人 を1単位
- 訓練された専門職 50人 が支援
- 全国に 500ユニット 配備
これにより、12万5千人規模の長期避難に対応可能と試算されています。年間コストは約300億円、国民1人あたり約300円という現実的な規模です。
■⑦ 「絶望」を防ぐという防災の本質
イタリアの災害対応で共通している考え方は、
「避難所環境が原因で人が亡くなることはあり得ない」
という認識です。
発災直後を過ぎると、被災者の最大の敵は「絶望」。
温かい食事、安心できる環境、人とのつながりが、復旧を早め、結果的に社会コストも下げるとされています。
■⑧ 防災庁への期待
今後設置が予定されている防災庁には、災害規模に応じた役割分担が期待されています。
- レベル1(局地災害):市町村主体(従来型TKB48)
- レベル2(広域災害):都道府県・国による広域支援(SUM基準TKB48)
- レベル3(国難級災害):総動員体制
責任の所在を明確にし、迷わず動ける制度設計が求められています。
■⑨ まとめ|避難所は「生きる場所」
避難所は、単なる一時的な収容場所ではありません。
命・尊厳・希望を守る生活の場です。
自治体任せにしない外部支援、標準化された仕組み、そして人を中心に据えた防災。これらを積み重ねることが、災害関連死ゼロへの現実的な道筋と言えるでしょう。

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