火災現場から戻ったあと、防火服や活動服をそのまま車内や自宅に持ち込んでいませんか。
被災地派遣やLOとして現場に立つ中で、もっとも見落とされやすい危険だと感じたのが、家族への「二次曝露」です。
煤(すす)は現場だけの問題ではありません。
持ち帰った瞬間から、家族の生活空間に広がるリスクになります。
■① 二次曝露とは何か(なぜ家庭が危険になるのか)
二次曝露とは、火災現場で付着した有害物質が、
- 防火服
- 活動服
- 手袋・ヘルメット
- 車内シート
を通じて、家庭内に持ち込まれることを指します。
煤には、
- 多環芳香族炭化水素(PAHs)
- 揮発性有機化合物
- 重金属類
が含まれ、微量でも長期接触で影響が出るとされています。
■② 特に影響を受けやすい家族
現場経験から、二次曝露で注意すべき対象は明確です。
- 乳幼児(床・衣類接触が多い)
- 小さな子ども(皮膚吸収率が高い)
- 妊婦
- 高齢者
- ペット
特に子どもは、消防服を「お父さん・お母さんの匂い」として触りに来ることがあります。
この瞬間が、最も危険です。
■③ 実際に起きていた現場の例
被災地派遣中に聞いた話です。
- 車内が煤臭く、家族が頭痛を訴えた
- 防火服を洗面所で脱ぎ、家中に臭いが残った
- 子どもが活動服を触って遊んでいた
悪意は一切なく、「知らなかった」だけで起きています。
■④ 家族を守るための「遮断動線」設計
● 帰署時の基本ルール
- 防火服は現場または署で脱ぐ
- 可能な限り一次除染を実施
- 個人装備は密閉袋に入れる
● 車内での対策
- 防火服を座席に直置きしない
- 専用コンテナ・防水バッグを使用
- 車内換気を徹底
車は移動する曝露空間になり得ます。
● 自宅に持ち帰る場合の最小限ルール
- 玄関で脱衣(居室に入らない)
- 洗濯機へ直行(他衣類と分ける)
- 手洗い・洗顔・シャワーを優先
この導線を決めておくだけで、二次曝露は大きく減らせます。
■⑤ 家族に伝えておくべきこと
大切なのは、家族を不安にさせない説明です。
- 「危ないから触らないで」ではなく
- 「これは仕事の道具で、洗う前は触らない約束」
と共有しておく。
防災は、家族全員で守る仕組みです。
■⑥ 行政・組織が言いにくい本音
二次曝露対策は、
- 明文化されていない
- 個人任せになりがち
- 時間と設備が不足しがち
しかし、これは職業性健康被害の延長線にあります。
本来は、組織として取り組むべき課題です。
■まとめ|家族を守ることも消防士の防災
結論はシンプルです。
- 煤は家に持ち込まない
- 動線を決めれば守れる
- 家族への二次曝露は防げる
元消防職員・防災士として伝えたいのは、
火災現場で守った命の延長に、あなたの家族がいます。
防火服を脱ぐ場所、洗う順番、持ち帰らない工夫。
それらはすべて、家族の防災行動です。
現場で強い消防士ほど、
家庭では一番やさしく、安全であってほしい。
それが、長く現場に立ち続けるための本当の備えです。

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