異臭事案は、通報時点では原因物質が特定できず、有毒ガスや可燃性物質の可能性を含む極めてリスクの高い事案です。令和8年に示された「異臭等事案対応フローチャート」は、警察・消防が安全に初動対応するための重要な判断基準を可視化したものです。現場経験を踏まえ、この流れがなぜ重要なのかを解説します。
■① 異臭事案の認知がすべての起点
異臭事案は、通報者からの119・110通報、学校や事業所からの連絡など、さまざまな経路で認知されます。被災地派遣やLO業務でも、「最初は異臭だけだった」という通報が、後に化学物質事故へ発展したケースを何度も見てきました。認知の段階で“危険物質の可能性あり”と捉える意識が重要です。
■② ホットラインによる即時情報共有
フローチャートでは、警察本部(通信指令課)と消防指令センターのホットラインによる情報共有が明確に位置づけられています。
・通報の有無確認
・出動要請
・管轄警察署からの連絡対応
この初動連携が遅れると、単独対応による受傷リスクが一気に高まります。
■③ 集結場所の設定=命を守る判断
現場に直接入らず、「集結場所(コールドゾーン)」で合流する点は極めて重要です。元消防職員として、原因物質不明の段階で不用意に現場へ近づくことが、最も危険な行為だと断言できます。距離を取った集結が、初動の安全を担保します。
■④ 現場到着前の役割分担
消防は現場付近待機を指示しつつ、警察へ消防との連絡を促します。この段階で、
・誰が測定するのか
・どこまで規制するのか
・住民対応はどうするのか
を整理できるため、現場混乱を防げます。
■⑤ 合流後の責任者協議が分岐点
集結場所で警察・消防が合流後、必要な情報を共有し、今後の方針を協議します。
被災地対応でも、この「最初の5分の協議」が、その後の安全性と対応速度を大きく左右していました。現場判断の質は、ここで決まります。
■⑥ 警察の現場活動と役割
警察は、
・交通規制
・避難誘導
・関係者からの事情聴取
を担います。異臭事案では、住民の不安が非常に大きく、秩序ある誘導が不可欠です。消防活動を守る“外側の防災”が警察の重要な役割です。
■⑦ 消防の専門的対応
消防は、
・環境測定
・原因物質の推定
・傷病者の救助
を担当します。ガス検知器や防護装備を用いた対応は、専門性の塊です。防災士の視点でも、ここは完全に消防主導が適切な領域です。
■⑧ フローチャートが防災力を底上げする
このフローチャートの価値は、「誰が対応しても一定の安全水準を保てる」点にあります。災害対応は人が替わっても続きます。手順の可視化は、組織全体の耐災害力を高めます。
■まとめ|異臭事案は“近づかない連携”が正解
異臭等事案では、迅速さよりも安全が最優先です。ホットラインによる情報共有、コールドゾーンでの合流、役割分担の明確化。この流れを徹底することが、警察・消防双方、そして地域住民の命を守ります。フローチャートは、現場経験の集積であり、実践的な防災知そのものです。

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