災害時、救急隊がすぐ到着できるとは限りません。
その数分間に、命を左右するのがCPR(心肺蘇生)です。
近年注目されているHP-CPR(High Performance CPR)は、
単なる技術ではなく「質を落とさず、止めない蘇生」を追求する運用思想です。
本記事は、JRC蘇生ガイドラインの方向性と整合する形で、防災文脈に落とし込んで解説します。
■① HP-CPRとは何か
HP-CPRとは、
・胸骨圧迫の質を維持
・中断時間を最小化
・明確な役割分担
・チーム連携の最適化
を徹底する考え方です。
これは北米EMSを中心に広がった概念ですが、
JRC蘇生ガイドラインが示す「高品質CPR」の思想と整合します。
重要なのは“止めないこと”。
質を維持した継続が予後を左右します。
■② ガイドラインが示す“質”とは
JRC蘇生ガイドラインでは、高品質CPRの要素として
・適切な圧迫速度
・十分な圧迫深度
・完全なリコイル
・中断の最小化
が示されています。
HP-CPRはこれをチーム単位で徹底する運用方法といえます。
「単なる手技」ではなく「プロセス改善」です。
■③ 防災とCPRの接点
大規模地震や広域停電では、
・交通寸断
・同時多発要請
・救急到着遅延
が起こり得ます。
院外心停止においては、
バイスタンダーCPRの実施と質が生存率を大きく左右します。
防災とは“初動対応力”を高めること。
CPR教育はその中核です。
■④ 被災地で実感した現実
被災地派遣やLOとして現場に入った際、
救急搬送が通常より遅れる状況を経験しました。
その時に強く感じたのは、
「現場にいる人のCPRの質がそのまま命に直結する」
という事実です。
防災士として現場で多かった誤解は、
「講習を一度受けたから大丈夫」という安心感でした。
“やったことがある”と
“身体に刻まれている”は別物です。
■⑤ フィードバックデバイスの意義
近年の教育機器では、
・圧迫深度
・圧迫テンポ
・圧迫率
・リコイル
を数値で確認できます。
ガイドラインはデバイスを必須とはしていませんが、
客観評価は質向上に有効とされています。
感覚任せではなく、科学的に修正できる環境が重要です。
■⑥ 新人教育と現任教育の違い
新人教育では、
・基礎手技の確立
・恐怖感の軽減
・反復による定着
が中心になります。
現任教育では、
・中断時間短縮
・役割固定化
・リーダー判断力
・チームパフォーマンス向上
が焦点です。
JRCガイドラインも、チーム蘇生や教育継続の重要性を示しています。
■⑦ 行政側が言いにくい現実
救急体制には限界があります。
同時多発災害時には遅延も起こり得ます。
「救急は必ずすぐ来る」という前提は危険です。
だからこそ、市民や教育現場のCPRレベル向上が重要になります。
これは責任転嫁ではなく、現実認識です。
■⑧ 防災力としてのCPR教育
CPR教育は医療分野だけの話ではありません。
・学校
・企業
・地域防災訓練
すべてが“命を守る防災力”です。
HP-CPRの本質は
「質を落とさず、継続する仕組みを作ること」。
災害時に機能するのは、
訓練で身体に刻まれた動きです。
■まとめ|止めない蘇生が命をつなぐ
HP-CPRは特別な技術ではありません。
ガイドラインが示す高品質CPRを、チームで徹底する運用思想です。
結論:
災害時に命を救うのは、質を落とさず続けられるCPR体制と、継続的な訓練です。
元消防職員として現場で確信しているのは、
準備されたチームほど迷いが少なく、救命率が高いという事実です。
防災の中心に、CPR教育を位置づけること。
それが“命を守る防災”の本質です。
出典:日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン

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