南海トラフ巨大地震の対策は、いま「建物や津波で命を守る」だけでは足りない段階に入っています。国の計画でも、災害関連死を減らすための「命をつなぐ」対策が明確に強調されました。
ここでは、防災士の視点で「計画のポイント」と「家庭で今日からできる具体策」を、迷わない形に整理します。
■① そもそも「命を守る」と「命をつなぐ」は何が違う?
「命を守る」は、津波・倒壊・火災などで“その瞬間に亡くなる”リスクを減らす対策です。
一方の「命をつなぐ」は、避難生活の中で体調を崩したり、持病が悪化したり、寒さ・暑さ・衛生悪化・ストレスで亡くなる“災害関連死”を減らす対策です。
現場で感じるのは、発災直後より「数日〜数週間後」に生活が崩れていく怖さです。助かった命が、環境の悪化で削られていく。ここを本気で減らすのが「つなぐ」です。
■② 国交省の計画改定で強調されたポイント
今回の計画では、大きく次が整理されています。
- 「命を守る」対策:海岸堤防の耐震化、住宅・建築物の耐震化、インフラ強靭化、津波避難情報の周知など
- 「命をつなぐ」対策:ライフライン早期復旧(特に水)、物資の広域輸送、避難生活の環境整備、支援体制強化など
- 複合災害対策:先発災害の被害把握(リモートセンシング等)、応急対応の強化、技術支援
- 多様な主体との連携:道路啓開、訓練、資機材の分散配備、情報共有の高度化
要するに、「耐える準備」だけでなく「回す準備(運用)」へ、国も舵を切っているということです。
■③ 個人が最優先で整えるべきは「水」と「トイレ」
災害関連死の引き金になりやすいのは、断水と衛生の崩壊です。
水がないと、飲めない・手が洗えない・トイレが詰まる・感染が広がる・持病管理が乱れる、が連鎖します。
私が被災地で支援に入ったときも、「水が来ない」が生活の不安を一気に増幅させました。飲料水だけでなく、生活用水とトイレの確保ができると、避難生活の“しんどさ”が目に見えて下がります。
今日やるなら、この順で十分です。
- 飲料水:1人1日3L×最低3日(できれば7日)
- 生活用水:ポリタンク、風呂水のため置き、ウェットシート
- トイレ:簡易トイレ(凝固剤+袋)を家族人数×日数分
■④ 「広域輸送が来るまで」を自宅でつなぐ考え方
計画では物資の円滑な広域輸送が強化されますが、現実は「届くまでの時間差」があります。
ここを埋めるのが家庭備蓄です。
防災でいちばん多い失敗は、「家族分は買ったつもり」なのに“3日目で詰む”ことです。理由は単純で、食料より先に「水・トイレ・電源」が尽きるからです。
最低限の設計はこれでOKです。
- 食:火を使わず食べられる主食(パン・米飯・麺)+たんぱく(缶詰・サバ・豆)
- 電:モバイルバッテリー+乾電池+車の充電手段
- 情:ラジオ(電池式)+紙に書いた連絡先+避難先の集合ルール
■⑤ 「複合災害」を家庭に落とすと何を想定すべき?
複合災害は、地震+豪雨、地震+寒波、台風+停電など、条件が重なるパターンです。
家庭でやるべきは難しくありません。「同時に起きたら困る順」に並べるだけです。
おすすめの並べ方は次です。
1) 断水(飲めない・衛生が崩れる)
2) 停電(情報・暖房/冷房・充電が止まる)
3) 道路寸断(物資が来ない・病院に行けない)
4) 通信不安定(連絡できない・デマが増える)
この順で“最低限の代替手段”を置くと、複合でも崩れにくくなります。
■⑥ 「命を守る」側の王道はハザードマップと耐震
計画でも繰り返し触れられている通り、個人が「命を守る」ために効果が大きいのはこの2つです。
- ハザードマップで、自宅・職場・通学路のリスクと避難先を確認
- 住宅の耐震化(古い木造は特に要注意)
- 家具固定(寝室・子ども部屋を優先)
現場で痛感するのは、避難の判断が遅れる原因が「どこへ行けばいいか分からない」ことです。確認は一度でいいので、家族で共有しておくと迷いが減ります。
■⑦ 「命をつなぐ」ための避難生活の質を上げるコツ
災害関連死を減らすには、避難生活を“我慢大会”にしないことが重要です。
特に効くのは、体調を崩す引き金を潰すことです。
- 寒さ・暑さ:毛布+アルミシート+着替え(汗冷え対策)
- 衛生:手指消毒、ウェット、口腔ケア、簡易トイレ
- 睡眠:耳栓、アイマスク、マット(床の冷えは体力を削る)
- 薬:お薬手帳(写真でOK)+常備薬の予備
被災地でよく見る“誤解されがちポイント”は、「食べ物があれば大丈夫」という発想です。実際には、睡眠・衛生・水が崩れると、体も心も一気に落ちます。
■⑧ 今日からできる「家庭版・命を守る/つなぐ」チェックリスト
最後に、迷わないチェックを置きます。
- 命を守る:ハザードマップ確認/避難先共有/家具固定/耐震の検討
- 命をつなぐ:水(飲+生活)/トイレ/電源/衛生/睡眠/持病対応
- 複合に備える:断水+停電を同時に想定して3日回せるか
- 情報:ラジオ/紙の連絡先/集合ルール
この4本柱で、計画の方向性に個人の備えをピタッと合わせられます。
■まとめ|南海トラフ対策は「助かった後」を崩さない備えが勝負
南海トラフ巨大地震の対策は、「命を守る」だけでなく「命をつなぐ(災害関連死を減らす)」へ重点が移っています。
家庭で効くのは、まず水とトイレ、次に電源と衛生、そして避難判断の迷いを消すハザードマップです。
結論:
「水・トイレ・電源・衛生」を先に固めるほど、災害関連死のリスクは下げられます。
防災士として被災地の支援現場を見てきて強く思うのは、備えは“多さ”より“順番”が命を守るということです。まずは水とトイレから、今日一つだけ進めてください。
出典:国土交通省「金子大臣会見要旨(国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画の改定について)」

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