災害時に命を守る行動を決めるのは、体力よりも「判断力」です。ところが判断力が落ちた状態では、避難の判断が“壊滅的”に崩れます。危険が目の前にあっても動けない、情報が多すぎて固まる、家族の前で決断できない——こうした状態は、性格ではなく「脳と心のコンディション」で起こります。
この記事では、防災士の視点で「判断力低下が避難判断力を崩壊させる理由」と、判断を軽くして行動につなげる具体策をまとめます。
■①判断力が落ちると、避難は“決められなくなる”
避難は「正解を当てる」行為ではなく、「今この瞬間に決めて動く」行為です。判断力が落ちると、次の現象が同時に起きます。
・危険を過小評価する
・情報の優先順位がつけられない
・決断が遅れ、準備が後手になる
心理学では、人は強いストレス下で認知資源(ワーキングメモリ)が低下し、合理的判断が難しくなることが知られています。災害はまさにその環境です。判断が遅れた数十分が、夜間・停電・渋滞と重なると、一気に避難難易度が上がります。
■②避難判断が“崩壊”する典型パターン
判断力低下が進むと、避難は次のように崩れます。
・「様子見」が長引く(決められない)
・家族会議が終わらない(結論が出ない)
・SNSやテレビを見続ける(情報収集が止まらない)
・準備が増えていく(完璧主義で時間が溶ける)
特に情報過多は危険です。人は選択肢が増えるほど決断が遅くなる(決定麻痺)傾向があります。災害時に情報を集め続ける行為は、安心ではなく“判断エネルギーの消耗”につながります。
■③判断力低下を加速させる「3つの燃料」
判断力が壊れやすくなる燃料は、だいたいこの3つです。
・睡眠不足(脳の回復不足)
・だらだらスマホ(脳の疲労を上乗せ)
・不安の反すう(最悪シナリオを繰り返す)
睡眠不足は注意力・意思決定能力を低下させることが、多くの研究で示されています。厚生労働省の調査でも、働き盛り世代の睡眠不足傾向は顕著です。
平時から判断力を削る生活をしていると、災害時に“最後の一押し”が効かなくなります。
■④被災地で多かった“避難できない人”の共通点
被災地派遣やLOとして現場に関わった中で、印象的だった言葉があります。
「危ないとは思っていた。でも決められなかった。」
知識はあった。ハザードマップも見ていた。それでも動けなかった。
理由は、疲労と不安で判断が重くなっていたことでした。
・家族を説得する気力がない
・避難所生活が怖い
・今動くほうが面倒に感じる
避難判断は理屈よりも“コンディション”の影響が大きい。これは現場で何度も感じた事実です。
■⑤判断を軽くする“設計”が最強の防災になる
判断力が落ちても動ける人は、頭が良いのではなく「判断が軽い仕組み」を先に作っています。災害時に考える量が少ないほど、行動は早くなります。
防災の本質はこうです。
・災害時に考えない
・平時に決めておく
・迷う余地を減らす
これは“精神論”ではなく、設計の問題です。
■⑥対応策①|避難の判断を“二択”に落とす
判断が崩壊する最大要因は「選択肢が多すぎる」ことです。避難判断は二択まで落とすと強くなります。
例:
・警戒レベル○以上なら「行く」
・川がこの高さを超えたら「行く」
・夜間は無理に動かない
・家族の誰かが不安を感じたら「行く」
基準が単純であるほど、判断は軽くなります。
■⑦対応策②|避難先を“3層化”して迷いを消す
避難所への不安は判断を止めます。だから避難先をあらかじめ3層にしておきます。
・第1避難:指定避難所・高台
・第2避難:親戚・知人宅
・第3避難:車中避難(条件を事前に決める)
選択肢を増やすのではなく、「階層化」することで迷いを減らします。
■⑧対応策③|判断を守る“脳の備え”
判断力は日常で守れます。
・睡眠時間を確保する(起床時間固定)
・寝る前90分はスマホを見ない
・災害情報は“見る時間”を決める
・不安は紙に書き出して外に出す
判断を軽くする最大の近道は、脳を疲れさせない生活です。
■まとめ|判断を軽くする人が、最後に動ける
判断力低下は、避難判断を静かに壊します。
だからこそ、気合いで頑張るのではなく、判断を軽くする設計を先に作ることが重要です。
結論:
避難判断を守る最短ルートは「平時に決めて、当日は迷わない」こと。
今日やることは一つで十分です。
家族で「避難の二択ルール」を1つ決め、スマホのメモに書いて共有する。それだけで、次の災害で判断が軽くなります。
出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査」(睡眠時間統計)

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