【元消防職員が解説】防災×会話の設計|大規模組織の災害対応は「伝わる仕組み」で決まる(BCP・初動・現場連携)

災害時に組織が崩れるのは、装備や根性よりも「会話が詰まる」ことが原因になりがちです。
「情報は出しているのに現場に伝わらない」「部門間の連携が遅い」「意思決定が遅れる」――これは人の能力不足ではなく、コミュニケーションの“設計不足”で起きます。

被災地派遣(LO)で現場と行政・支援側をつなぐ役割を経験して痛感したのは、被害規模が大きいほど“伝達ミス”が命取りになるという現実です。この記事では、災害対応に強い組織をつくるための「会話の設計」を、今日から実装できる形でまとめます。


■①災害時に起きるのは「情報不足」より「情報詰まり」

災害時は情報が“ない”のではなく、次の理由で“詰まる”ことが多いです。

  • 情報が多すぎて優先順位がつかない
  • 報告が長い/結論が最後で、判断が遅れる
  • 伝える先が多すぎて、全員に同じ内容を送ってしまう
  • 現場の「いま困ってること」が上に上がらない
  • 上の「決めたこと」が現場の行動に落ちない

だから必要なのは、情報量を増やすことではなく、伝え方・通し方を「型」にすることです。


■②「人の問題」に見えて、実は“仕組みの問題”である

現場でよく聞く言葉があります。

  • 「言ったのに伝わってない」
  • 「現場が動かない」
  • 「誰も決めない」

でも、被災地の現場で見たのは、皆が必死で動いているのに、会話の流れが悪くて動きが合わない状況でした。
特に、指揮・調整・情報共有の“交通整理”が曖昧だと、優秀な人がいても成果が出ません。

会話の設計は、能力の底上げではなく「連携の再現性」をつくる作業です。


■③防災に強い組織が持つ「会話の3レイヤー」

災害対応の会話は、目的別に3層に分けると混乱が激減します。

  • ①状況共有(何が起きている?)
  • ②意思決定(何を優先し、何をやめる?)
  • ③行動指示(誰が・いつまでに・何をする?)

被災地派遣(LO)で一番多かった失敗は、①の共有が延々続いて②③に行けないことでした。
「共有の会議」になった瞬間に、現場の時間が溶けます。会話は“共有→決定→割当”の順に固定するのが基本です。


■④初動を崩す“よくある失敗”と誤解されがちポイント

防災の現場で多かった失敗を、あえて1つだけ挙げます。

  • 「全員を安心させるために、情報を全部出す」→逆に混乱する

誤解されがちなのは、「情報は多いほど安心」という考え方です。
実際は、災害時ほど“情報は絞る”ほうが安全です。理由はシンプルで、判断と行動のスピードが落ちるからです。

行政側が言いにくい本音を一つ言うなら、
「迷わせないために、情報をあえて減らす」ことが必要な局面があります。


■⑤会話の設計①|報告を「結論→理由→次の一手」に統一する

災害時の報告は、フォーマットで勝ちます。おすすめはこの順です。

  • 結論(いま何が必要?)
  • 理由(根拠は何?)
  • 次の一手(誰が何をする?)

例:
「結論:〇〇地区で水が止まり、給水が必要です。理由:断水が〇世帯、受水槽も空。次の一手:給水車の手配と給水所の設置をお願いします」

LOとして現地に入ると、長い報告ほど重要点が埋もれます。
“1分で通る報告”に統一すると、組織全体の判断が軽くなります。


■⑥会話の設計②|意思決定を速くする「二択ルール」と権限の見える化

意思決定を速くするコツは、会議の工夫ではなくルールです。

  • 二択に落とす(やる/やらない、行く/行かない)
  • 迷う条件を先に決める(この条件なら自動でGO)
  • 権限を見える化する(誰が最終決裁かを明記)

災害時は「完璧な正解」ではなく「十分な安全」を取りにいくゲームです。
二択ルールがある組織は、現場が止まりません。


■⑦会話の設計③|現場と本部をつなぐ「フロントライン回路」を作る

現場の判断が遅れる組織は、現場の声が上がらないのではなく、上げる回路がありません。

おすすめは、現場→本部の定期送信を“短文テンプレ”で固定することです。

テンプレ例(60秒で送る)

  • ①いま一番危ないこと
  • ②いま一番困っていること
  • ③いま必要な支援(人・物・情報)
  • ④次の30分でやること

現場の声が「困りごと」起点で上がると、本部は支援判断が一気にしやすくなります。


■⑧今日からできる実装|災害対応の会話を“訓練で型”にする

会話の設計は、紙に書くだけでは定着しません。訓練で「型」にします。

今日からできる最小アクションはこれです。

  • ①報告テンプレを1枚にする(結論→理由→次の一手)
  • ②決裁者と代行順位を明記する(不在時も止めない)
  • ③現場→本部の短文テンプレを作る(危険・困り・支援・次の一手)
  • ④“共有会議”を禁止し、必ず「決定→割当」で閉じる

被災地派遣(LO)で強く感じたのは、災害に強い組織ほど「会話が短い」のに「行動が揃う」ということです。
会話を短くするのではなく、会話の型を揃える。これが鍵です。


■まとめ|会話の設計は「判断を軽くし、行動を速くする防災」

災害対応の生産性は、気合いでは上がりません。
会話の設計で、判断の負荷を下げ、行動の速度を上げます。

結論:
災害に強い組織は、情報を増やすのではなく「伝わる型」を先に決めています。

元消防職員として現場を見てきた立場から言えるのは、助かる現場は“英雄”がいるのではなく、“会話の流れが詰まらない”ということです。
まずは報告テンプレを1枚だけ作り、訓練で回してみてください。会話が整うと、現場は前に進みます。

出典:消防庁「令和6年版 消防白書(消防防災分野におけるDX)」https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r6/report6/68296.html

コメント

タイトルとURLをコピーしました