【防災士が解説】防災×農業|九州農業の未来は「多様な経営」と“災害に強い基盤”で決まる

農業は、食料をつくる産業であると同時に、地域の命と暮らしを支える「防災インフラ」でもあります。
九州では農業生産基盤の整備が進む一方で、高齢化・担い手不足・経営の不安定化が重なり、これまでのやり方だけでは立ち行きにくくなっています。
だからこそ今必要なのは、“多様な経営”で活路を開きつつ、災害に負けない農地・水・人の仕組みを同時に整えることです。


Table of Contents

  • ■① なぜ「防災×農業」が今の九州で重要なのか
  • ■② 農業の最大リスクは“災害そのもの”ではなく「復旧できない構造」
  • ■③ 「多様な経営」が防災力を底上げする理由
  • ■④ 農地の集積・規模拡大は“復旧速度”を上げる
  • ■⑤ スマート農業は「省力化」だけでなく“被害最小化”の武器になる
  • ■⑥ 兼業・多様な働き手で“担い手断絶”を防ぐ
  • ■⑦ まず整えるべき「水・排水・土」の防災基盤
  • ■⑧ 今日からできる最小行動(行政・法人・個人)
  • ■結語

■① なぜ「防災×農業」が今の九州で重要なのか

災害が起きたとき、最初に揺らぐのは「食」と「物流」です。
農業が弱れば、地域は食料の安定供給を失い、復旧・復興の体力も落ちます。
つまり、農業の持続性は“地域の耐災害力”そのもの。防災の視点で農業を捉え直すことが、九州の未来に直結します。


■② 農業の最大リスクは“災害そのもの”ではなく「復旧できない構造」

同じ規模の災害でも、早く戻れる地域と、戻れない地域が出ます。差を生むのは「復旧できる構造があるか」です。

  • 担い手が限界で、復旧作業を回せない
  • 田畑が点在し、合意形成も復旧も遅れる
  • 水路・排水・ため池などが脆弱で、毎年同じ被害を繰り返す
  • 経営体力が弱く、1回の被害で離農につながる

災害に強いとは「被害ゼロ」ではなく、“戻れる設計”があることです。


■③ 「多様な経営」が防災力を底上げする理由

「多様な経営」は、平時の成長策であると同時に、非常時の分散策です。

  • 作目分散:一つの作物が被害を受けても全滅しない
  • 販路分散:直売・契約・加工・ECなど、物流途絶への耐性が上がる
  • 収入分散:加工・観光・副業などで、被災後の資金繰りが崩れにくい
  • 人材分散:家族経営だけに頼らず、法人・地域・外部人材で回る

防災に強い経営ほど、結果的に“平時にも強い”のが現実です。


■④ 農地の集積・規模拡大は“復旧速度”を上げる

農地がまとまるほど、復旧は速くなります。

  • 排水・暗渠・畦畔の補修が一体で進めやすい
  • 機械投入や作業動線が合理化され、復旧作業が回る
  • 合意形成がしやすく、復旧方針が決まりやすい
  • 用排水施設の維持管理を共同化できる

災害時は、点在する小さな被害が“地域全体の遅れ”に直結します。
集積は、経営効率だけでなく、復旧の機動力を上げる施策です。


■⑤ スマート農業は「省力化」だけでなく“被害最小化”の武器になる

スマート農業は「人手不足の穴埋め」だけではありません。防災の観点でも有効です。

  • 気象・水位・土壌のデータで、作業判断を早める(逃げ遅れを防ぐ)
  • ドローン・自動走行で、危険環境下の作業を減らす
  • 圃場管理の可視化で、被害把握と復旧計画を速くする
  • 施肥・防除の最適化で、被災後の回復力を上げる

「勘と経験」を否定するのではなく、判断を支える補助輪として使うことで、災害時のミスが減ります。


■⑥ 兼業・多様な働き手で“担い手断絶”を防ぐ

農業は、災害が引き金となって担い手が途切れやすい分野です。
だからこそ“関わる人の幅”を広げることが防災策になります。

  • 兼業や副業を前提に、農業に参加できる枠を増やす
  • 繁忙期・復旧期だけ支える短期人材(地域内外)を組み込む
  • 法人化・共同化で、個人の限界を超えて回す

被災地では「やる人がいないから復旧できない」という場面が現実に起きます。
私自身、被災地支援の現場(自治体の支援派遣・LOとしての調整業務)で、“人と段取りが足りないと、復旧の速度が落ちる”ことを何度も見てきました。農業でも同じで、仕組みが先に必要です。


■⑦ まず整えるべき「水・排水・土」の防災基盤

農業の被害は、雨が降った瞬間ではなく、「水を逃がせない構造」で増えます。
優先順位はこの順です。

1) 排水:水を外へ逃がせるか(暗渠、排水路、ポンプ、越流)
2) 用水:必要な時に水が来るか(取水施設、ため池、配水管理)
3) 土地改良:崩れる前に守れているか(法面、護岸、圃場の区画)
4) 維持管理:点検・補修を回せる体制があるか(共同・法人・行政連携)

「毎年どこが詰まるか」「どこが溢れるか」を把握し、先に直す。
これが、被害を“毎年の風物詩”にしないための核心です。


■⑧ 今日からできる最小行動(行政・法人・個人)

大きな改革の前に、まず一歩で効果が出る行動から始めます。

  • 行政:排水・用水の“弱点マップ”を公開し、優先順位を合意する
  • 法人・集落:復旧時の役割分担(連絡・資材・機械・人員)を決めておく
  • 個人:圃場ごとの「雨の日に起きること」を記録し、対策の当たりを付ける
  • 共通:販路を一つ増やす(直売・加工・契約など)=災害時の保険になる

防災は大きな備えより、“戻れる仕組みを先に作る”ことが効きます。


■結語

九州農業の未来は、「多様な経営」で活路を開くことと、「災害に強い基盤」で戻れる構造を作ることの両輪で決まります。
食料を守ることは、暮らしを守ること。農業を守ることは、地域の防災を強くすることです。
いま積み上げる小さな改善が、次の豪雨・台風・地震のあとに“立ち上がれる九州”をつくります。


出典:西日本新聞(2026年2月13日)社説「九州農業の未来 多様な経営で活路開こう」

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