「ハザードマップを信じ過ぎてはいけない」
奈良女子大付属小学校の児童による発表は、防災教育の好例として注目を集めました。
報道では、土砂災害警戒区域の境界線を実際の街の写真に重ね、実験結果と照らし合わせて議論した様子が紹介されています。
なお、「中間被災者」などと同様に、この発表内容も行政の公式見解ではありませんが、防災の実務的視点として十分に妥当性のある問題提起です。
防災士の立場から、その本質を整理します。
■① ハザードマップは“想定図”である
ハザードマップは、過去データや地形解析に基づく予測図です。
しかし、
・想定雨量を超える豪雨
・地形の変化
・都市開発による排水能力の変化
などによって、想定外の被害が生じることがあります。
防災研究でも、区域外浸水の事例は複数報告されています。
ハザードマップは重要な資料ですが、絶対的な安全保証ではありません。
■② 境界線は自然の“停止線”ではない
児童が行った「砂山に水を流す実験」は科学的に妥当です。
土砂や水は、地図上の線で止まりません。
被災地派遣(LO)で現地確認をした際も、
想定区域外が浸水している事例を確認しました。
「白色だから安全」という誤解が、避難遅れを招くケースは実在します。
■③ 実地確認の重要性
発表では、避難所までの経路にスロープのない歩道橋があることが指摘されました。
地図では安全でも、実際に歩いてみると、
・段差
・急坂
・冠水しやすい低地
が見つかります。
元消防職員として強調したいのは、
避難は「距離」より「通行可能性」が重要だという点です。
■④ 過剰装備という落とし穴
教員の指摘にあった「避難袋に何でも詰め込むと大変」という言葉。
現場でも同様の問題を多く見てきました。
重すぎる荷物は、
・移動速度の低下
・転倒リスク
・避難遅延
を引き起こします。
水・食料・現金などの最小限装備が基本です。
■⑤ 防災教育の課題
能登半島地震の教訓でも語られたように、
防災が“イベント化”すると行動変容は起きにくい傾向があります。
体験と結びついた学習、
身近な事例の共有が、自分ごと化を促します。
これは多くの防災研究とも一致する見解です。
■⑥ 自律型避難という考え方
「自分で考える・確認する・選ぶ」
この姿勢は、防災研究者の提言とも一致しています。
ハザードマップは“目安”。
最終判断は現地確認と地域防災計画の理解が支えます。
自律型避難とは、受け身ではなく主体的な判断です。
■⑦ 地域防災計画との併用
より正確な判断には、
・自治体の最新ハザードマップ
・地域防災計画
・避難所開設基準
の確認が有効です。
単独資料に依存せず、複数情報を組み合わせることが安全につながります。
■⑧ 不安を煽らない防災
ハザードマップの限界を指摘することは、不安を煽るためではありません。
目的は、
・過信を避ける
・現地確認を促す
・判断力を高める
ことです。
福岡のように土砂・洪水リスクが高い地形では、特に重要な視点です。
■まとめ|信じるな、ではなく信じ過ぎるな
奈良女子大付属小学校の児童発表は、防災教育の好例です。
ハザードマップの限界を理解し、
・現地を歩く
・地域防災計画を確認する
・過剰装備を避ける
ことが命を守ります。
結論:
ハザードマップは目安。最終的に命を守るのは、自分の確認と判断です。
元消防職員として断言します。
助かった人は、地図だけでなく現場を見ていました。
冷静に、主体的に。
それが壊れにくい防災の姿勢です。


コメント