【防災士が解説】DNARとは何か|災害時に「蘇生しない」が誤解されないための整理

救急(元消防職員が解説)

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation:蘇生処置拒否)は、心肺停止になったときに心肺蘇生(CPR)を「試みない」という、本人や家族の意思表示です。
これは「何もしない」ではなく、過度な苦痛を伴う延命を避け、尊厳ある看取りを選ぶための選択肢の一つです。

災害時は情報が途切れ、医療が逼迫し、判断が急がされます。
だからこそ、DNARを正しく理解しておくことが、本人と家族の判断を守ります。


■① DNARの定義|「心肺停止時のCPRを試みない」

DNARが対象とするのは、心臓や呼吸が止まった“心肺停止”の場面です。

・胸骨圧迫(心臓マッサージ)
・人工呼吸
・AED(除細動)
・気管挿管や人工呼吸器装着
・蘇生に伴う薬剤投与

こうした心肺蘇生を「試みない」という意思表示がDNARです。
「DNR」よりも「Attempt(試み)」を含むDNARが、より正確な表現として用いられています。


■② 目的|苦痛を増やす延命ではなく尊厳を守る

DNARが検討される背景には、「蘇生しても回復の見込みが乏しい状態」があります。

回復の可能性が低いにもかかわらず、強い侵襲と苦痛を伴う蘇生処置を行うことが、必ずしも本人の望む最期とは限りません。
DNARは、QOL(生活の質)や尊厳を重視した選択の一つです。


■③ DNARは“治療の全停止”ではない

最も誤解されやすい点です。

DNARは「心肺蘇生」に限定された概念であり、以下は対象外です。

・点滴
・酸素投与
・栄養補給
・痛み止めなどの緩和ケア

DNAR=すべての医療をやめる、ではありません。
「蘇生だけは試みない」という限定的な意思表示です。


■④ 決定プロセス|本人意思が最優先

DNARは、医師単独で決めるものではありません。

・判断能力がある場合:本人の意思が最優先
・判断能力がない場合:家族が本人の価値観を代弁
・医療チーム:予後や蘇生可能性を踏まえ多職種で検討
・記録:書面や診療録に明記

災害時ほど、書面での意思表示が重要になります。


■⑤ 注意点|撤回可能であること

DNARは固定された決定ではありません。

・本人の意思が変わった
・病状が変化した
・治療選択肢が変わった

このような場合は見直しが可能です。
安易な「死の選択」ではなく、状況に応じて再検討されるべき医療方針です。


■⑥ 災害時に起こりやすい誤解

被災地派遣(LO)では、医療方針を巡って混乱が生じる場面を見てきました。

・DNARなら救急要請してはいけない?
・痛み止めも使えない?
・医療が受けられない?

こうした誤解は事実ではありません。
DNARは「蘇生処置の範囲」を限定するものであり、苦痛緩和や通常医療は継続されます。


■⑦ ACPとの関係|人生会議の一部

DNARはACP(アドバンス・ケア・プランニング)の一環として位置づけられます。

・最期をどこで過ごしたいか
・どんな医療を望むか
・家族にどう判断してほしいか

平時に整理しておくことで、災害時の混乱を減らせます。


■⑧ 医療判断についての重要な前提

DNARの適用や医療行為の実施可否は、最終的に医師の医学的判断に基づきます。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、具体的な医療判断は必ず主治医と相談してください。


■まとめ|尊厳を守るための整理

DNARは、心肺停止時に心肺蘇生を「試みない」という意思表示であり、治療の全停止ではありません。
本人の価値観を尊重し、多職種で検討し、必要に応じて見直される医療方針です。

結論:
DNARは「何もしない」ではなく、尊厳を守るための医療選択肢。災害時ほど誤解されない整理と記録が重要です。

【出典】
日本集中治療医学会「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方」
https://www.jsicm.org/pdf/DNAR20161216_kangae_01.pdf

※2026年2月時点で上記指針の大きな変更は確認されていません。最新情報は学会公式資料をご確認ください。

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