消防用設備(自動火災報知設備・誘導灯など)が未設置のまま是正されず、消防が「設置命令」を出しても履行されなかった場合、最終的に“刑事手続(告発)”に進むことがあります。
今回の報道はまさにその流れで、現場の感覚から言うと「ここまで来る前に止められる段階が何度もあった」事案です。事業者側が押さえるべきは、設備そのものよりも“是正の動き方”です。
■① 何が起きた?「未設置」→「指導」→「命令」→「告発」の流れ
報道によれば、工場で設置義務のある自動火災報知設備と、避難口の誘導灯が未設置のままで、立入検査や電話指導を受けても是正されず、消防法に基づく設置命令も履行されなかったため、消防が警察に告発した――という内容です。
重要なのは、いきなり告発ではなく、通常は段階的に是正を促される点です。
■② 自動火災報知設備と誘導灯は「命を守る最低ライン」
工場は、可燃物・機械・電気設備が多く、火災が起きると煙の充満と延焼が早いのが特徴です。
そこで効くのが次の2つです。
・自動火災報知設備:初期の煙や熱を検知して、建物内に早く知らせる
・誘導灯(避難口表示など):停電や煙の中でも、出口方向を示す
現場で何度も見たのは、「火は小さくても煙で視界がゼロになり、出口が分からなくなる」ケースです。誘導灯は“最後の道しるべ”になります。
■③ 「立入検査の指摘=軽い注意」ではない
立入検査で指摘が入った時点で、消防は「火災予防上の危険」「法令違反の可能性」を見ています。
この段階で素直に動けば、ほとんどのケースは“改善”で終わります。
ところが、現場で多い失敗はこうです。
・「忙しいから後で」→ズルズル先送り
・「工事費が高い」→見積りを取らずに放置
・「前からこうだった」→責任者交代で宙に浮く
時間が経つほど、行政側は「改善意思がない」と判断せざるを得なくなります。
■④ 「設置命令」が出たら、もう“最終警告”に近い
設置命令は、消防が強い手続で是正を求める段階です。
ここでやるべきことは、言い訳ではなく“行動の証拠”を揃えることです。
・設備業者へ即日相談し、見積り取得
・工程表(いつ・どこを・どう工事するか)を作る
・消防へ「いつまでに、どこまで完了するか」を文書で共有
・仮対策(増設の消火器、巡回強化、通路確保等)も合わせて実施
「動いている」ことが伝われば、改善の余地が生まれます。逆に、無反応・放置が一番危ないです。
■⑤ 告発されると何が違う?“消防の問題”から“司法の問題”へ
告発は、行政指導の段階を超えて、法令違反として捜査対象になり得る段階です。
つまり、ここから先は「設備を付ければ終わり」では済まない可能性が出てきます。
現場で感じるのは、告発が出ると関係者の心理が一気に硬直し、対応が遅れやすくなることです。
だからこそ、告発の前段階(立入検査〜命令)で止めるのが最重要です。
■⑥ 現場で多かった“誤解されがちポイント”――「火事を出してないから大丈夫」
「うちは火事を出してない」
これが一番よく聞く言葉です。でも、防火の世界は“結果ではなく条件”で判断します。
・設備が必要な用途・規模・構造になっている
・未設置なら、火事の有無に関係なく是正が必要
被災地派遣(LO)で見た現実として、災害時は消防力も医療も逼迫し、平時の“当たり前”が機能しにくくなります。
だからこそ、平時に「火災になった瞬間に自力で逃げ切れる条件」を整えておくことが、事業継続と従業員の命を守ります。
■⑦ 事業者が今日からできる「最小チェックリスト」
難しいことは要りません。まずは次の3点だけ確認してください。
・消防用設備点検(法定点検)の実施状況:直近の点検結果報告は出ているか
・避難経路:物が置かれていないか/扉が施錠・固着していないか
・設備の“未設置”がないか:増築・用途変更・レイアウト変更で必要設備が増えていないか
そして、指摘を受けたら「先に業者へ連絡→工程を作る→消防へ共有」の順で動く。これが最短で安全です。
■⑧ 「お金がない」時の現実的な考え方:費用より高くつくものがある
設備費は確かに負担です。ですが、火災が起きた場合に失うものはもっと大きいです。
・従業員や近隣の命と健康
・操業停止、取引停止、信用失墜
・復旧費、賠償、保険の問題
・行政・司法対応のコスト
私は元消防職員として、火災後に「もっと早く設備を入れておけば…」と崩れ落ちる経営者を何人も見ました。
設備はコストではなく、倒れないための“土台”です。
■まとめ|「立入検査の指摘」で止める。命令まで行かせない動き方が鍵
結論:
消防の指摘を受けたら、即日で「業者手配・工程作成・消防へ共有」まで動く。設置命令が出たら“最終段階”だと思って、放置をゼロにする。
元消防職員の立場から断言します。告発に至る前に、止められるタイミングは必ずあります。最短で安全側に倒す――それが従業員と事業を守る一番の防火です。
出典:総務省消防庁「法令(消防法等)」

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