災害対応で本当に困るのは、被害そのものだけではなく「情報が集まらない」「指示が届かない」「名簿や申請が動かない」ことで、支援が遅れてしまうことです。
行政の現場では、住民の命を守る判断も、物資の配分も、避難所の運営も、結局は“情報”に支えられています。
その情報の背骨のひとつが、LGWAN(総合行政ネットワーク)です。平時は当たり前に動いている回線ですが、有事こそ価値が見えます。被災地派遣で現場に入ったときも、「つながる回線があるかどうか」で初動の速さが変わる場面を何度も見てきました。
- ■① LGWAN回線とは?|自治体同士をつなぐ“行政専用ネットワーク”
- ■② 災害対応でLGWANが重要な理由|“意思決定の遅れ”を減らす
- ■③ どこが弱点になりやすい?|停電・設備被害・輻輳で“つながらない”が起きる
- ■④ “止まらない”運用の基本|冗長化と代替手段を最初から決めておく
- ■⑤ LGWANと現場の仕事をつなぐ|避難所・物資・被害情報は“データで動く”
- ■⑥ 平時にやるべき備え|BCPは「通信が落ちる前提」で作る
- ■⑦ 災害時の優先順位|まず守るべきは“命に直結する情報”
- ■⑧ 今日できる最小行動|“通信が落ちた日”の机上訓練を1回やる
- ■まとめ|LGWANは“行政が止まらない”ための背骨。災害時は電源と運用が勝負
■① LGWAN回線とは?|自治体同士をつなぐ“行政専用ネットワーク”
LGWAN回線は、地方公共団体の庁内LAN同士を相互接続し、自治体間の情報共有や業務を安全に行うための行政専用ネットワークです。
インターネット回線と違い、行政業務向けに高いセキュリティを前提として設計されているため、次のような用途で活躍します。
・自治体間の連絡(メール、共有基盤)
・各種行政システムへの接続(クラウド型業務、認証基盤など)
・国や関係機関との情報交換(仕組み上の連携)
「住民の個人情報」や「被害情報」の取り扱いが前提になる行政では、“安全につながる回線”がまず土台になります。
■② 災害対応でLGWANが重要な理由|“意思決定の遅れ”を減らす
災害時は、判断が遅れるほど被害が増えます。
LGWANが安定して使えると、次のような“行政の詰まり”が起きにくくなります。
・被害状況の集約が進む(報告が揃う)
・避難所の入退所情報・支援ニーズが整理できる
・物資や応援の調整が「電話と紙」だけに戻らない
・申請や台帳が止まりにくい(住家被害、り災関連など)
被災地派遣の現場では、情報が集まらないと「必要なところに必要な支援が届かない」状態になります。回線が生きているだけで、支援の優先順位づけが一段ラクになります。
■③ どこが弱点になりやすい?|停電・設備被害・輻輳で“つながらない”が起きる
LGWANが行政専用であっても、物理的な弱点は残ります。
・庁舎の停電(UPSがない、燃料が足りない)
・通信機器の水没や損傷(サーバ室、配線、空調停止)
・回線収容ビルや経路の被害
・災害時の輻輳(周辺通信が逼迫し、連絡が通りにくい)
現場感覚としては「回線が切れる」より、「電源が落ちる」「機器室が使えない」ほうが実務上のダメージが大きいことがあります。通信は“電気とセット”で守る必要があります。
■④ “止まらない”運用の基本|冗長化と代替手段を最初から決めておく
災害に強い運用は、技術よりも先に「方針」です。
・回線の冗長化(主回線+予備回線)
・機器の冗長化(ルータ、スイッチ、重要サーバ)
・電源の確保(UPS+発電機+燃料の運用)
・代替通信(衛星通信、モバイル回線、臨時回線)
・“どの業務を優先して復旧するか”の順位付け
被災地では、全部を同時に復旧できません。だからこそ「行政として最低限どこまで動けば命が守れるか」を事前に決めておくことが、結果的に住民の安心につながります。
■⑤ LGWANと現場の仕事をつなぐ|避難所・物資・被害情報は“データで動く”
災害対応は、現場で汗をかく人と、情報を束ねる人の両方で回ります。
LGWANが生きていると、次の連携が取りやすくなります。
・避難所ごとの人数・要配慮者・不足物資の集計
・応援職員の受援調整(誰がどこに入るか)
・被害情報(住家、人的、ライフライン)の整理
・住民への周知(複数の広報手段の整合)
LOとして被災地に入ったとき、最初に整えるのは「状況の見える化」です。紙や口頭でも回せますが、人数が増えるほど破綻します。回線が生きていれば、最小の入力で“全体像”が作れます。
■⑥ 平時にやるべき備え|BCPは「通信が落ちる前提」で作る
BCP(業務継続計画)で重要なのは、“回線がある前提”で作らないことです。
・LGWANが止まったときの代替手順(紙、ローカル台帳、電話連絡網)
・復旧後にデータを戻す手順(入力の二重化を防ぐ)
・庁舎が使えない場合の代替拠点(どこで業務するか)
・通信機器室の水害・火災対策(止めない工夫)
被災地派遣で見たのは、「仕組みはあるのに、誰も操作できない」「手順書が庁舎にあって取り出せない」といった“運用の穴”です。BCPは、現場で実行できて初めて意味があります。
■⑦ 災害時の優先順位|まず守るべきは“命に直結する情報”
災害時に全部を守ろうとすると、かえって遅れます。
優先順位は「命に直結する情報」からです。
・避難情報と避難所運営(人数・要配慮者・医療)
・救助・救急に関わる情報(孤立、安否、危険箇所)
・物資と支援の調整(不足を見える化し、偏りを減らす)
・被害認定・申請関連(復旧期に必須だが、初動の最優先ではない場合もある)
現場では、同時多発で困りごとが来ます。通信が不安定なときほど、「何を優先して通すか」を決めておくと混乱が減ります。
■⑧ 今日できる最小行動|“通信が落ちた日”の机上訓練を1回やる
今日できる最小行動はシンプルです。
「LGWANが止まった日」を想定して、各担当が1回だけ机上で動いてみることです。
・連絡は何で取る?(電話、衛星、無線、メッセージ)
・名簿や台帳はどこに置く?(紙、ローカル、バックアップ)
・避難所の人数把握はどうする?(最低限の様式)
・復旧後、どこに入力し直す?(二重入力の整理)
1回やるだけで、弱点が見えます。災害は「準備した通りにしか動けない」ので、訓練の価値は大きいです。
■まとめ|LGWANは“行政が止まらない”ための背骨。災害時は電源と運用が勝負
LGWAN回線は、自治体間の情報共有や行政業務を安全に行うための行政専用ネットワークです。災害対応では、被害情報の集約、避難所運営、物資調整など、意思決定のスピードを支える背骨になります。一方で、停電や設備被害で止まることもあるため、冗長化・代替通信・BCP運用がセットで重要になります。
結論:
LGWANを守ることは、災害時に“行政の判断と支援を止めない”ことそのものです。
被災地派遣やLOの現場では、情報がつながるだけで初動が軽くなり、支援の偏りや遅れを減らせる場面を何度も見てきました。通信は技術だけでなく、電源と運用で守る――ここが最も現実的な備えです。
出典:地方公共団体情報システム機構(J-LIS)「LGWANについて(目的及び基本方針)」https://www.j-lis.go.jp/lgwan/about/purpose/cms_1559539.html

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