消防や防災の啓発は、正しいことを言っているのに届かないことがあります。背景には、情報があふれる社会で「注意」が奪い合いになっている現実があります。
昭和42年の「近代消防」にも、赤色灯の連載で“広告の光の海”の中でPRが埋もれる問題が描かれていました。時代が変わっても、伝える側の悩みは本質的に同じです。現場目線で「届くPR」に変えるポイントを8つに整理します。
■① 「笛吹けど踊らず」の正体は“無関心”ではない
届かない理由を「市民の意識が低い」で片付けると改善が止まります。多くの場合、無関心ではなく“余裕がない”だけです。
仕事・家事・育児・介護で頭がいっぱいの人に、抽象的な正論は刺さりません。まずは「相手の生活の中で優先順位が上がる形」に翻訳する発想が必要です。
■② 広告の海で埋もれるのは当然|情報環境を前提にする
都会の夜が光の海で、その多くが広告だという指摘は、今ならSNSや動画広告に置き換わります。
つまり、防災PRは「強いコンテンツ」と同じ土俵で戦っています。真面目な情報を、真面目な言い方のまま出しても負ける。まずは、負ける前提で設計を変えるのが出発点です。
■③ 一番届くのは「今日困ること」からの入口
防災PRは「命を守る」だけでは重すぎて、日常では後回しになりがちです。
入口は「今日困ること」に寄せると届きやすいです。例えば、停電=スマホが使えない、断水=トイレが詰む、豪雨=車が出せない、など。生活の困りごとから入って、最後に命の話へつなげます。
■④ 1メッセージ1行動|やることを1つに絞る
「備えましょう」では動けません。動けるのは「これを今日やって」で、しかも1つだけです。
例)
・今夜、懐中電灯の電池を入れ替える
・玄関に靴を置く
・家族LINEに集合場所を1つ送る
行動が起きれば、次の行動につながります。PRの目的は理解ではなく“最初の一歩”です。
■⑤ 伝え方は短く、具体に、反復する
防災PRは一回で終わらせないことが重要です。短く、具体に、繰り返す。
長文の啓発ポスターより、「短い言葉×頻度」の方が残ります。現場でも、要点が短い指示ほど事故が減ります。防災も同じで、短いほど守られます。
■⑥ 視覚で勝つ|色・図・写真で“理解の負担”を下げる
文章は読まれにくい。だから、図・写真・色で勝つ。
避難経路、危険箇所、備蓄の中身などは、文章より一枚の図が強いです。理解の負担を下げるほど、行動のハードルも下がります。
■⑦ 失敗しがちなPR|正しさの押し付けと“怖がらせすぎ”
防災の失敗は、啓発側にもあります。
・不安を煽りすぎて、読む気を奪う
・専門用語で相手を置いていく
・できない人を責める空気になる
被災地派遣(LO)でも感じたのは、追い詰められた人ほど「説教」に反発することです。安心を増やす言い方に変えるだけで、受け取られ方が変わります。
■⑧ 届くPRにする運用|現場の声→小さく試す→改善する
一発で当てようとすると外れます。
・住民の質問を集める(何に困っているか)
・小さく試す(短い投稿、短い掲示)
・反応を見て改善する
このサイクルを回すと、同じテーマでも年々届くようになります。防災は「一回きりの発信」ではなく「運用」です。
■まとめ|「届く防災PR」は生活の言葉に翻訳した時に生まれる
広告や情報があふれる時代に、防災PRが埋もれるのは当然です。だからこそ、入口を生活に寄せ、1メッセージ1行動に絞り、短く具体に反復し、視覚で理解の負担を下げる。これだけで届き方が変わります。
結論:
防災PRは“正しさ”で勝つのではなく、“相手の生活で動ける形”に翻訳して初めて届きます。
元消防職員として現場を見てきて、そして被災地派遣(LO)でも痛感したのは、情報そのものより「受け取った人が次に何をできるか」が結果を分けるということです。届くPRは、行動が一つ増えるPRです。
出典:http://ff-inc.co.jp/wpmailmaga/sekisyoku_no42_c

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