【元消防職員・防災士が解説】防災×老人ホーム|高齢者を守るために施設が必ず備えるべき対策

災害時、最も被害が出やすいのが「高齢者」。
特に老人ホームでは、行動が遅れやすく、避難が難しい入居者が多いため、災害対策は“一般家庭の数倍”のレベルで求められる。

ここでは、老人ホームで必ず押さえるべき防災ポイントをまとめる。


■① 老人ホームの災害リスクは“複合型”

高齢者施設は以下の危険に同時にさらされる。

● 地震:転倒・骨折・家具倒壊
● 火災:避難が遅れ、煙に巻かれやすい
● 水害:車椅子・歩行器が使えず垂直避難が困難
● 停電:エレベーター停止・酸素機器の停止
● 断水:トイレ機能が止まり衛生環境が悪化

高齢者ほど災害の影響が重くなるため、施設には“多層的な対策”が不可欠。


■② 避難の成否は「平時の準備」で決まる

老人ホームで最も重要なのは、災害当日の動きよりも“段取りの準備”。

● 介護度別の避難リスト
● 移動速度の把握
● 車椅子・ストレッチャーの配置
● 夜勤帯の最少人数での避難訓練
● 誘導係・搬送係・情報係の役割分担

災害は、職員が“迷わず手を動かせるか”で結果が変わる。


■③ 夜間・少人数での避難が最大の課題

多くの施設では夜勤は職員1~2名。
この人数で30~50人を避難させるのは極めて難しい。

● 夜間訓練を必ず実施
● 夜間は“部屋ごとの優先順位”を決めておく
● 火災想定は最短ルート・代替ルートの2本立て
● スプリンクラー・防火扉の作動チェック

災害は昼間に起きるとは限らない。
“夜勤が安全に避難誘導できるか”が施設防災の核心。


■④ 要介護者の命を守る“避難動線の整備”

高齢者はわずかな段差でも転倒しやすく、狭い通路は混乱の原因となる。

● 廊下の障害物ゼロ
● ベッド周りの退避スペース確保
● スロープの滑り止め
● 非常口周辺のモノを完全撤去
● 車椅子がすれ違える幅の確保

避難経路の整備は、最も効果が高い“事故防止策”。


■⑤ 医療依存度の高い利用者を守る仕組み

酸素・吸引・経管栄養など、医療依存度の高い高齢者ほど停電の影響が大きい。

● 非常用電源(発電機・蓄電池)の確保
● O2ボンベのバックアップ
● 停電時の人工呼吸器等の作動確認
● 医療機器の優先電源ラインの把握
● 医師・看護師との緊急連絡体制

医療機器が使えなくなる時間帯こそ、命の危険が最大化する。


■⑥ 在宅避難(施設内待機)できる環境づくり

大規模災害では“外へ逃げるより施設内の方が安全”というケースも多い。

● 3日〜7日分の水・食料備蓄
● 転倒防止器具・家具固定の徹底
● 非常トイレの大量確保
● 発電機+ソーラーパネルで電力確保
● 高齢者向けの食べやすい備蓄食を準備

災害弱者ほど“避難しない選択”が命を守る場合がある。


■⑦ 家族連携は“命綱”になる

高齢者施設は災害時に家族の問い合わせが殺到する。

そのため、事前の連携が必須。

● 緊急連絡先を2つ以上
● 家族への防災説明会
● 災害時の面会ルール
● 状況共有の方法(掲示・メール・Xなど)

家族と連携できる施設は、災害時の混乱が最小限になる。


■⑧ 最後に|老人ホームの防災は“命を預かる医療行為”

高齢者施設の防災は、一般家庭とは比較にならないほど重要。
それは職員が“入居者の命を預かる立場”だからだ。

● 避難判断
● 初期対応
● 医療機器管理
● 食料・水の確保
● 夜間の安全確保

これらすべてが揃って初めて、高齢者を守る防災が完成する。

高齢者ほど災害弱者となりやすい時代、
老人ホームの防災は“最も責任の重い防災分野”の一つ。

施設の備えが、そのまま入居者の生存率を決める。

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