老人ホームの防災で最も危険なのは、実は地震でも火災でもない。
一番の弱点は——“夜勤帯の人員不足”。
日中は職員が複数いるが、夜勤は1〜2名で数十名を守らなければならない。
災害は時間を選ばず、深夜に大地震・火災・停電が起きてもおかしくない。
だからこそ、夜勤シフトの防災力を強化することが、施設全体の生存率を大きく左右する。
ここでは、老人ホームの夜勤防災で押さえるべきポイントを解説する。
■① 夜勤は“人が足りない前提”で対策を組む
夜勤帯の防災で重要なのは、
「職員1〜2名でできる現実的な行動計画」があるかどうか。
● 1人では抱えて運べない入居者の扱い
● 同時に複数室で助けを求められる状況への対応
● 火災→通報→誘導→初期消火の順番
● 夜間の停電で医療機器が止まるリスク
● エレベーター停止時の移動の困難さ
“人員前提のマニュアル”は夜勤では役に立たない。
夜勤は、最低人数で動けるように作戦を立てる必要がある。
■② 夜勤専用の「優先避難リスト」を作っておく
夜勤は時間が足りない。
だからこそ、職員は最初の5分で「誰から助けるか」を迷ってはいけない。
● 寝たきりで動かせない人
● 医療依存度が高い人(酸素・吸引)
● 認知症でパニックになりやすい人
● 夜間に徘徊リスクがある人
● 自力で動ける人
この優先順位を夜勤バージョンとして整理しておけば、
“リストの上から順に動くだけ”で対応ができる。
迷いを減らすことが夜間防災の核心。
■③ 夜間火災は昼間より危険性が高い
夜間火災は、老人ホームにとって最大級の脅威。
理由は以下の通り。
● 入居者が寝ていて避難が遅れる
● 職員が少ないため、安全確認に時間がかかる
● 暗がりで煙を認識しづらい
● 認知症の方がパニックで徘徊する
● 初期消火に向かう時間が取れない
夜勤では「初期消火は無理」と割り切り、
通報 → 避難誘導を優先
というルールを徹底するのが理想。
■④ 停電時は「医療機器の停止」が最優先リスク
老人ホームでは、停電は“ただの暗闇”ではない。
命に直結する重大事故につながる。
● 酸素・吸引装置が止まる
● ベッドの電動機能が使えない
● トイレの自動洗浄が止まる
● エレベーター停止で移動不可
● 各室への巡回が困難になる
停電した瞬間、夜勤職員は
「医療依存度の高い入居者の部屋」
へ最初に走らなければならない。
この動きができる施設は強い。
■⑤ 夜勤は“訓練の質”で防災力が決まる
夜勤帯の防災は経験だけでは対応できない。
必要なのは「夜勤専用の訓練」。
● 真っ暗な廊下をライトだけで動く訓練
● 夜間火災想定で、最初の10分の動きを再現
● スタッフ1名での避難誘導訓練
● 医療機器が止まった時の行動シミュレーション
● 実際の夜間と同じ“静けさ”の中で訓練
夜勤を強化しない施設は、防災に穴がある。
■⑥ 夜勤こそ、防災マニュアルを“最小化”すべき
マニュアルが分厚いと、災害時は絶対に読めない。
特に夜勤は1人対応なので、
「3ステップですべて対応できるマニュアル」
が理想。
おすすめの夜間版行動フローはこちら。
① 異常発生を確認
② 最も危険な入居者の安全確保
③ 全体の避難/在宅判断へ移行
これ以上複雑にすると、夜間は絶対に回らない。
■⑦ まとめ|“夜勤を制する施設”だけが災害を乗り越えられる
老人ホームの防災は、
夜勤の強さ = 施設の強さ。
● 少人数での動き方
● 夜勤専用の優先順位
● 火災時の割り切った判断
● 停電時の初動対応
● 夜間専用訓練の徹底
● シンプルなマニュアル化
これらができている施設は、災害時に圧倒的に強い。
「夜勤で対応できるか?」
これは老人ホーム防災における最重要ポイント。
夜勤が強い施設だけが、入居者と職員の命を守る存在になれる。

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