老人ホームは、災害時に最も被害が大きくなりやすい施設のひとつ。
理由は明確で、「自力で動けない人」が多く暮らしているからだ。
● すぐに避難できない
● 職員の数が限られている
● 医療依存度が高い入居者が多い
● 認知症によるパニックリスク
この“災害弱者の集団生活”という構造が、災害時に大きなハードルになる。
ここでは、老人ホームが災害に強くなるために必要な視点を分かりやすく解説する。
■① 災害時は「職員人数 × 入居者人数」の差が最大の課題になる
老人ホームの防災は、一般家庭とまったく違う。
最大の弱点は、入居者人数に対して職員が圧倒的に少ないこと。
● 夜勤:職員1〜2人で40〜60名を見るケースも多い
● 大地震:多数の家具転倒・パニック
● 火災:複数室から同時に助けを求められる
● 停電:医療機器停止で緊急対応が必須
「助けが必要な人が多い × 職員が少ない」
この構造を前提にしないと、現実的な防災はできない。
■② 施設全体で「避難優先順位」を明確にする
災害時は時間がない。
特に夜間は、職員がほぼ“マンパワーゼロ”の状態で動かなければならない。
だからこそ、
助ける順番のルール化 が必須。
例:
● 最優先:医療依存度が高い入居者(酸素・点滴)
● 次:寝たきり・移乗に時間がかかる人
● 次:認知症で徘徊リスクがある人
● 最後:自力歩行できる人
優先順位が共有されていれば、職員は“迷わず動ける”。
■③ 火災は「夜間」が圧倒的に危険
老人ホームの火災は、発生そのものよりも“逃げ遅れ”が最も危険。
特に夜間は次の理由で被害が拡大する。
● 入居者が寝ていて動きが遅い
● 布団・カーテンなど可燃物が多く延焼しやすい
● 職員が少なく誘導が間に合わない
● 暗闇で煙に気づくのが遅れる
夜勤帯の火災対策は「初期消火より通報と誘導の優先」が基本。
■④ 停電は“医療リスク”として最重要
老人ホームで最も危ない災害のひとつが停電。
停電は、入居者の命に直結する。
● 酸素・吸引装置が止まる
● 電動ベッドが動かない
● スプリンクラーや自動火災報知設備が誤作動することも
● エレベーター停止で避難不可
職員は「停電=医療トラブル発生」と認識しておく必要がある。
■⑤ 認知症の方のケアが災害時の最大の壁になる
災害中は、認知症の方が次のような行動を取ることがある。
● 不安で大声を出す
● 職員の指示とは反対に動く
● 自室に戻ろうとして迷子になる
● 火災中に戻ろうとする(危険)
職員は“心の安全”を優先した声かけや接し方を想定しておく必要がある。
■⑥ 防災マニュアルは“実際に動ける形”にする
厚いマニュアルは災害時に役に立たない。
老人ホームでは「現場で身体が動くマニュアル」が必要。
特に夜勤帯は、
● 最初の5分でやること
● 誰を最初に助けるか
● 火災・地震・停電の優先順位
● 他のフロアと連絡する方法
● 通報と避難のどちらを優先するか
など、シンプルな行動の流れが重要。
■⑦ 老人ホームの防災力は“訓練の質”で決まる
現場を経験した立場から断言できるが、
訓練していない施設は“何もできない”。
特に必須なのは以下の3つ。
● 夜間想定の訓練(暗い・静かな環境で)
● 避難優先順位に沿った動線訓練
● 医療機器トラブルのシミュレーション訓練
訓練でできないことは、本番では絶対にできない。
■まとめ|老人ホームは“防災が命を左右する現場”
老人ホームは、災害弱者が集まる場所。
だからこそ、一般家庭より何倍も防災対策が必要。
老人ホーム防災の核心は次のとおり。
● 職員人数に合わせた“現実的な行動計画”
● 優先避難のルール化
● 夜間火災への特化した対策
● 医療依存入居者への即対応
● 認知症ケアを含めた災害マニュアル
● 夜勤想定のリアルな訓練の徹底
この6つを押さえた施設は、災害に強い。
「災害はいつでも起きる」
だからこそ、今日から1つずつ防災力を高めることが、入居者の命を守る最も確実な方法になる。

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