【元消防職員・防防士が解説】老人ホームが“水害に弱い理由”と今すぐできる対策|高齢者施設こそ早期避難が命を守る

老人ホームは「水害に最も弱い施設」の1つと言われる。
理由は、高齢者の移動が遅く、避難に時間がかかるうえ、職員の人数も限られているため。

水害は地震と違い「事前に分かる災害」。
だからこそ、知識と準備で“守れる命が圧倒的に多い”。
ここでは、老人ホームが必ず押さえるべき水害対策をまとめる。


■① 老人ホームが水害に弱い最大の理由:避難に圧倒的な時間がかかる

老人ホームの避難は、一般家庭とは桁違いに時間がかかる。

● 歩行がゆっくり
● 車椅子の搬送に人数が必要
● 認知症高齢者の誘導に時間がかかる
● 夜間は職員が少ない

このため、避難開始が遅れた瞬間に“詰む”

特に浸水は30分で建物が水没することもあるため、
「周囲が水に浸かり始めてから動く」では間に合わない。


■② 必須なのは“避難の前倒し”|警戒レベル3で動ける施設が強い

水害で助かる施設は共通している。
それは、避難判断が圧倒的に早いこと。

● 警戒レベル3(高齢者等避難)で避難開始
● 夜間に大雨の恐れがあれば職員増員
● 気象庁の「キキクル」で危険度を毎時確認

浸水する前に、
“職員が十分いる時間帯”に避難できるかがすべて。

逃げ遅れた老人ホームの多くは、
「様子見」が致命傷になった。


■③ 垂直避難が可能かどうか|2階以上に移動できる体制を作る

洪水時は、水平避難(外へ逃げる)が難しいケースが多い。
そこで重要になるのが垂直避難

施設が押さえるべきポイントは以下の通り。

● 2階以上の居室を非常用スペースとして確保
● 移動介助に必要な人数を事前に算定
● 夜勤帯のマンパワーでも可能か再確認
● 階段昇降補助具の整備

避難に20〜30分かかる施設は多い。
その時間を“確保できる判断力”が命を守る。


■④ 車椅子・寝たきり高齢者をどう運ぶか|想像以上に人手が必要

水害避難訓練で施設が驚くのが、
1人の移動に3〜4人が必要になる現実

● 車椅子の段差・階段
● ベッド移動の困難さ
● 大人を抱えての階段上がりは危険

そのため、以下の準備が必須。

● 階段用キャリー
● 避難用担架
● 滑り止めグローブ
● 職員の力仕事の分担表

訓練なしでは絶対に動けないため、
最低でも年2〜3回の訓練が必要になる。


■⑤ 水・トイレが止まるとすぐに衛生環境が悪化する

水害=浸水だけが問題ではない。

● 給水ポンプ停止
● トイレの逆流
● 手洗い不可による感染症リスク
● 汚水混じりの浸水で床が使用不能

施設は以下を備えておく必要がある。

● 簡易トイレ(入居者×10倍)
● 飲料水3日分+生活用水
● 次亜塩素酸系の消毒液
● ビニールシート・土嚢・止水板

特にトイレ問題は深刻。
汚物の処理が滞ると、数時間で衛生環境が崩壊する。


■⑥ 食料の備蓄は“全員3日分”が最低ライン

水害では物流も止まりやすい。
老人ホームは入居者数が多いため、
食料備蓄の不足が致命傷になる。

● やわらか食・介護食
● 嚥下困難者用食品
● 常温保存食品
● オール電化対策のカセットコンロ

一般家庭の10倍以上の備蓄量が必要になる。


■⑦ 送迎車・福祉車両を使った避難ルートの確保

老人ホームは車での避難が基本になるが、
浸水時に車が使えないケースも多い。

● 事前に高台へ車を移動
● 浸水深30cmで車はほぼ動かない
● 雨量が増える夜間は原則外出禁止

“避難ルートの事前確認”は必ず必要。


■⑧ 夜勤職員だけで避難できるか|最重要ポイント

夜間は職員が極端に少なくなる。
水害は夜にピークを迎えることが多く、
ここが施設最大の弱点。

● 3名以内で何名を動かせるか
● どの入居者から移動させるか
● 夜間の訓練が十分か

夜勤帯だけで避難できない施設は、
早期避難しか選択肢がない。


■まとめ|老人ホームの水害対策は“逃げる準備がすべて”

老人ホームは構造上・入居者特性上、
水害に極端に弱い。

だからこそ施設が取るべき行動は明確。

● “様子見せず”早めの避難判断
● 垂直避難の体制づくり
● 車椅子・寝たきりの避難計画
● 水・トイレ・衛生の備蓄強化
● 夜勤帯での避難訓練

水害は事前に分かる災害。
だからこそ、準備すれば“必ず助かる命”が多い。

今日から施設全体で、水害時の避難体制を強化してほしい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました