老人ホームは、地震への備えが不十分だと「被害が一気に拡大する施設」のひとつ。
その理由は、入居者の身体状況・施設構造・職員体制のすべてが“避難に時間がかかる設計”になっているためである。
ここでは、老人ホームが地震に弱い根本理由と、施設が必ず取り組むべき対策をまとめる。
■① 老人ホームは“転倒事故”が致命傷になる
地震時の負傷原因の1位は「家具・物の転倒」。
高齢者は反応が遅く、揺れへの耐性も弱いため、次のリスクが極めて大きい。
● タンス・棚の転倒
● テレビ・冷蔵庫の落下
● ガラス破片による受傷
● 廊下の物が倒れて避難の妨げになる
多くの施設では家具固定やスペース確保が遅れており、
“初動の転倒事故”が命に直結しやすい。
■② ベッドからの自力移動が難しく避難に時間がかかる
地震の揺れがおさまっても、避難には次の課題がある。
● 寝たきり・歩行困難者の多さ
● 車いす移動の同時対応
● 職員1人あたりの介助人数が大きい
● 夜間は人数が少ないため完全に人手不足
特に大規模地震では、
“職員が足りないために動けない”ことが最大の課題となる。
■③ 認知症入居者の誘導は想像以上に難しい
地震直後は混乱する人が多い。
認知症の入居者の場合、以下の行動が起こりやすい。
● パニック・徘徊
● 職員の誘導に従えない
● 揺れを理解できず部屋に戻ろうとする
これにより避難時間がさらに延び、
他の入居者の誘導にも影響する。
■④ エレベーター停止で上下移動が不可能になる
地震で真っ先に停止するのがエレベーター。
老人ホームは2〜4階建てが多いため、階段移動は極めて困難。
● ベッド搬送が不可
● 車いすごと階段移動が困難
● 上階からの避難に人手が3〜4倍必要
エレベーター停止時の避難計画を作っていない施設は危険。
■⑤ 建物の耐震性能が古いままの施設も多い
特に築20年以上の施設は注意が必要。
● 耐震基準を満たしていない
● 壁・柱の強度が不十分
● 内部の天井や照明が落下リスク
古い構造は、揺れに弱いだけでなく、
内部の落下物が多いという特徴がある。
■⑥ ライフラインが止まると“生活が成立しない”
地震では次のインフラが同時に止まる可能性が高い。
● 水道(数日〜数週間)
● ガス(長期停止の可能性)
● 電気(医療機器が動かない)
● エレベーター
老人ホームでは、以下が生活できなくなる。
● トイレの使用
● 入浴・清拭
● 食事提供
● オムツの衛生管理
● 酸素・吸引などの医療ケア
在宅避難ができない高齢者は、ライフライン停止に最も弱い。
■⑦ 物資不足が“数日で生命危機”につながる
高齢者は体力が低く、備蓄不足は大きなダメージになる。
● 食事が取れない
● 水分不足で脱水
● 衛生不足で感染症リスク増大
● 服薬の管理が乱れる
特に、嚥下機能が弱い人・糖尿病食・塩分制限の人は
専用食が切れると一気に健康悪化する。
■⑧ 必須の備え:老人ホームが整えるべき防災強化策
老人ホームが取り組むべきことは以下の通り。
● 全家具の固定
● 廊下の物を極力置かない配置
● 夜間帯を想定した避難訓練
● エレベーター停止前提の避難計画
● 簡易トイレ・水・介護食の大量備蓄
● 緊急地震速報の活用
● 入居者ごとの個別避難支援計画
防災は“施設全体で取り組む仕組みづくり”が最も重要。
■まとめ|老人ホームの地震対策は「スピード×仕組み」が命を守る
老人ホームは、地震の被害が大きくなりやすい。
しかし、対策をすれば“守れる命”は確実に増える。
● 転倒防止(家具固定)
● 誘導の効率化(訓練)
● 夜間でも動ける仕組み
● ライフライン停止を前提とした備蓄
地震は必ず来る災害。
だからこそ、平時の準備が入居者の命を守る最大の武器になる。
施設の防災力は、今日からでも強化できる。
“できるところから1つずつ”始めてほしい。

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