【元消防職員・防災士が解説】老人ホームで“停電が長期化したとき”に起きる危険と備えるべき対策|電気が止まるだけで命に関わる理由

老人ホームにとって、最も致命的なライフラインの停止は「停電」である。
高齢者介護は電気に依存する割合が非常に高く、電気が止まるだけで生活も医療も成立しなくなる。

ここでは、老人ホームで停電が続いたときの具体的なリスクと、施設が必ず整えておくべき対策をまとめる。


■① 酸素・吸引・医療機器がすべて止まる

多くの入居者が以下の医療機器を使用している。

● 在宅酸素
● 吸引装置
● 送風・加湿
● 電動ベッドの昇降
● 点滴・医療冷蔵庫

停電すれば、これらが一斉に使えなくなる。

医療依存度の高い入居者ほど、数分〜数十分で生命リスクが急上昇する。


■② エアコン停止で「熱中症・低体温症」の危険

高齢者は体温調整能力が低く、停電は命に直結する。

● 夏:熱中症、脱水
● 冬:低体温症、持病の悪化

特に夏の停電では、室温が急上昇し、
2〜3時間で危険域に達することもある。


■③ トイレが使えなくなる

停電で次の問題が発生する。

● 洋式トイレの給水・排水が作動しない
● 汚物処理が追いつかない
● 感染症が急拡大

高齢者の排泄ケアが止まると、
臭気・衛生・感染症のリスクが一気に高まる。


■④ エレベーター停止で移動不能

老人ホームはエレベーターが生命線。
停電すると、上階の入居者は完全に動けなくなる。

● 階段での移動は危険
● 搬送に3〜4倍の人手が必要
● 夜間は職員が不足

“避難できない階”が発生するのが最大の問題。


■⑤ 認知症フロアで混乱が起こりやすい

暗闇・暑さ・音のない空間は、認知症の方を混乱させる。

● パニック
● 叫ぶ・歩き回る
● 職員の誘導を聞けなくなる

停電は「認知症ケアが最も難しい状況」をつくる危険がある。


■⑥ 食事提供が止まる

厨房設備は電気依存が大きい。

● IH調理器
● 冷蔵庫・冷凍庫
● 食洗機

これらが止まると、

● 食事が作れない
● 食材が腐る
● 調理の衛生管理ができない

3食提供が前提の老人ホームにとって、
停電は“食事そのものが提供できない”状態をつくる。


■⑦ 連絡手段が途絶える

停電が長期化すると、

● Wi-Fi停止
● 電話機能が使えない
● 職員のスマホ充電が不足
● 家族への連絡不能

情報が途絶え、不安と混乱が広がる。


■⑧ 老人ホームが必ず備えるべき停電対策

停電に備えない老人ホームは多い。
しかし、以下を整えておくことで致命的な事故を防ぐことができる。

● ポータブル電源の複数台確保
● 在宅酸素・吸引など医療機器用の優先電源
● 非常用発電機の運用訓練
● 夏冬を想定した暑さ・寒さ対策
● 簡易トイレ・汚物袋の大量備蓄
● エレベーター停止時の階段搬送訓練
● 連絡手段の二重化(モバイルWi-Fi・衛星通信など)
● 食材の常温保存・レトルト食の確保

老人ホームは「電気が止まることを前提に設計」しなければ命が守れない。


■まとめ|停電は“老人ホーム最大の弱点”。対策すれば守れる命は増える

老人ホームの停電リスクは一般家庭の比ではない。
電気が止まると、医療・衛生・気温管理・移動・食事のすべてが崩れる。

だからこそ、施設は次を徹底すべき。

● 電源確保
● 移動手段の確保
● 医療支援の確保
● 衛生の確保
● 情報伝達の確保

停電対策は、「命を守るための最重要対策」。
今日からできる準備を1つずつ積み重ねれば、災害時に確実に役立つ。

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