【元消防職員・防災士が解説】防災×山の事故②|“なぜ毎年同じ場所で事故が繰り返されるのか”

山岳事故のニュースを見ると、
「また同じ山で遭難」
「毎年同じルートで転落」
というケースが非常に多い。

なぜ同じ場所で事故が何度も起きるのか。
その理由を“防災の視点”で分かりやすくまとめる。


■① 山は“環境が固定されない”。安全だった道が次の日に危険化する

山の環境は、
風・雨・雪・地震・落石
によって、毎日変化する。

● 昨日の雨で地面がゆるむ
● 木の根が露出して足を取られる
● 斜面が崩れて道が細くなる
● ロープが切れる
● 落石でルートが変わる

整備された登山道でも、“自然災害の影響を受け続けている場所”では、事故が起きる確率は常に高い。


■② 「事故多発ポイント」は“人間心理”の弱点が重なる場所

山で事故が多い場所には、必ず共通点がある。

● 景色が良く気が緩む
● 登頂直後の安心感
● 道が広く見えてスピードが出る
● 分岐が分かりにくい
● 疲労がピークになる区間

つまり事故多発地点は、自然が危険なのではなく、
“人が油断しやすい心理条件が揃っている場所”

防災の世界では、これを「ヒューマンエラー誘発点」と呼ぶ。


■③ 登山者のレベル差が大きい山ほど事故が起きやすい

有名で登りやすい山ほど、初心者〜上級者まで幅広い層が集まる。

● 初心者 → 体力不足・道具不足・判断力不足
● 中級者 → “慣れ”による油断
● 上級者 → スピードの出しすぎ

この「レベル差」が、事故を増やす原因になる。

同じルートを歩いていても、
“登山者のスキル差が事故を生む”のが山の怖さ。


■④ 救助された人の“ほぼ全員”が同じことを言う

多くの遭難者は、救助された後にこう語る。

「このルートは安全だと思っていた」
「少しだけ行けば大丈夫だと思った」
「迷ったけど、たぶんこっちだろうと進んだ」

山の事故の本質は、
“危険の過小評価”にある。

危険を危険と思えない心理状態では、同じエリアで事故は繰り返される。


■⑤ SNS・アプリの情報は“過去の安全”。今の安全ではない

多くの登山者が、SNSや登山アプリの情報を参考にする。

しかし──
● 投稿は数日前
● 天候は毎日変わる
● ルートの状況は誰も保証していない

昨日安全だった道が、今日は崩落していることは普通。
ネットの情報は便利だが、
“最新の安全を保証するものではない”


■⑥ “同じ場所で繰り返す事故”を防ぐためにできること

山の事故は完全には避けられないが、確率は大きく下げられる。

● 事故が多い山は慎重に計画
● 体力を過信しない
● 2〜3回登った山でも油断しない
● 天候急変を常に意識
● 下りを“最重要フェーズ”として歩く
● 迷ったら引き返す

防災の鉄則は
「危険要素を複数作らない」
こと。

山では、このルールが生死を分ける。


■まとめ|山の事故は“自然のせい”ではなく“油断の積み重ね”

同じ山で同じ事故が繰り返される原因は、
自然ではなく「人の行動パターンが同じだから」。

● 同じ場所で気が緩む
● 同じ条件で油断する
● 同じ天候で判断を誤る
● 同じ装備不足で挑む

事故は“偶然”ではなく、“起きるべくして起きている”。

防災の視点で山を見れば、事故は大幅に減らせる。
山を楽しむために、まずは危険ポイントの理解から始めてほしい。

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