【元消防職員・防災士が解説】防災×山の事故④|“道迷い”は発生した瞬間に災害へ変わる

山の事故で最も多いのは「転倒」。
しかし最も救助が長引き、命の危険が高まるのは “道迷い” だ。

道迷いは、単なるミスではない。
その瞬間から、寒さ・脱水・転落・遭難のリスクが一気に跳ね上がる。
防災の専門家として断言できるのは、
道迷いが起きると山の環境は一瞬で“災害”へ変わるということだ。


■① 道迷いの9割は“自分では迷っていると気づかない”状態で起きる

道迷いの特徴は、「迷ったと気づくまでが遅い」こと。

● 道が広く見える
● 獣道に入り込む
● 踏み跡がしっかりしていて本物の道に見える
● 会話しながら歩いて分岐を通過
● 地図アプリを確認しない

特に怖いのは、
“道に見えるが道ではない”斜面へ入り込むこと

これは地震でいう「正常性バイアス」と同じで、
“おかしい”と思っても進み続けてしまう心理が事故の本質だ。


■② 道迷いが災害級に危険な理由

道迷いはただの「ルートミス」ではない。
山では、迷った瞬間に複数の危険が同時に発生する。

● 日没で視界ゼロになる
● 斜面で転倒し骨折する
● 携帯圏外で救助要請が遅れる
● 水・食料が尽きる
● 低体温症が進行する
● パニックで体力消耗が増える

特に低体温症は危険で、秋〜春の山では数時間で歩行不能になる。
迷って動けない状態は、命のタイムリミットが始まるのと同じ。


■③ “引き返す判断”ができない人ほど遭難する

道迷いの大半は、
“早く気づけば助かる。気づかないほど危険が増える”
という構造。

しかし多くの人が引き返せない。

● 「すぐ正規ルートに戻るはず」と思い込む
● 進んだ距離がもったいない
● 地図を見るのが面倒
● 自信過剰

これは防災で最も危険な心理状態。
水害での“逃げ遅れ”と同じメカニズムで事故が起きる。


■④ 道迷いを防ぐための“3つの鉄則”

防災の視点から見ても、道迷いは事前対策の効果が大きい。

① 地図アプリ(YAMAP等)を必ず使う
登山は紙地図だけでは不十分。GPS併用が鉄則。

② 分岐のたびに立ち止まって方向確認
5秒で事故を防げる瞬間。

③ “不安を感じたらすぐ戻る”
少しでも違和感があれば、その地点が“最後の安全ライン”。

迷ったと感じる時点で、もう危険は進行している。


■⑤ 道迷いが起きた時に“絶対にやってはいけないこと”

迷った直後、焦って以下の行動を取ると危険が跳ね上がる。

● 走って道を探す
● 斜面を無理に登る・下る
● 勘だけで判断する
● 尾根に出ようとして無茶なルートを選ぶ

これは消防救助でも事故例が多い。
焦りは事故の連鎖を生む。


■⑥ 迷った時に命を守る“正しい行動”

道迷いは初動対応がすべて。

● 立ち止まる
● 深呼吸
● 直前の地点まで慎重に戻る
● アプリで位置確認
● 無理な下りを絶対にしない
● 体温を奪われないよう防寒

戻れないほど斜面に入ってしまった時は、
無理に動かず救助要請が正解

状況が悪化する前に確実な方法を取るのが防災の基本。


■⑦ 道迷いは“誰でも起きる”。だからこそ準備で差がつく

道迷いは初心者だけの問題ではない。
ベテラン登山者ほど、
● 過信
● 慣れ
● 思い込み
でリスクが上がる。

防災も登山も同じで、
「自分は大丈夫」が一番危険


■まとめ|道迷いは“迷った瞬間から災害”。初動が命を守る

道迷いは気づいた瞬間が勝負。

● 引き返す判断
● 立ち止まって冷静さを取り戻す
● GPSで現在地を確認
● 低体温と転倒を避ける

この行動ひとつで、生存率は大きく変わる。

山の防災は「迷わないこと」ではなく、
“迷った時に正しく動けること”で決まる。

命を守るために、今日から山の道迷い対策を徹底してほしい。

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