【元消防職員が解説】緊急消防援助隊 × 広域捜索のポイント|“数十km規模の被災地で生存者を見落とさない”ための戦略

地震・津波・豪雨などの大規模災害では、
被災エリアが市町村を超えて広がる。

そのような場面で緊急消防援助隊(緊援隊)が行うのが
「広域捜索」

倒壊家屋、孤立地域、浸水区域、山間部まで、
数十kmという“広すぎる現場”を限られた時間でカバーする必要がある。

ここでは元消防職員として、
緊援隊の広域捜索で重要となるポイントを
専門的に、かつ分かりやすく解説する。


■① 「優先順位づけ」が最大のカギ

広域捜索で最も重要なのは
“どこから捜すか”を決めること

判断基準はこの4つ:

● 安否不明者の多い地域
● 建物倒壊が集中している地区
● 高齢者・要支援者が多い区域
● 地形的に危険(津波・土砂)な場所

この優先順位をつけるために、
緊援隊は被災自治体・警察・自衛隊と情報共有し、
“捜索ゾーンマップ”を即作成する。


■② 班を細分化し「同時多発的に」捜索

広域では一点集中はNG。

● ポンプ隊
● 救助隊
● 情報収集隊
● 後方支援隊
● 航空隊(ドローン含む)

を複数のブロックに分けて、
同時に捜索を進めることで時間を短縮

“面で捜す”発想が広域捜索の基本。


■③ 航空・ドローンを活用し「俯瞰」で状況把握

広い範囲では、地上隊だけでは状況が分からない。

そのため航空隊は、

● 上空から倒壊・土砂・浸水エリアを確認
● 孤立地区の把握
● 道路寸断の判断
● 捜索優先エリアの指示

を行う。

ドローンは特に効果的で、

● 河川沿い
● 山間部
● 屋根上
● 倒壊建物の隙間

など“隊員が近づけない場所”を安全に調査できる。


■④ 「一次捜索」で広く速くカバー

広域捜索では、まず一次捜索で
生存者の早期発見を最優先する。

● 呼びかけ
● 窓からの確認
● 建物周辺のチェック
● 流木・漂流物の確認
● 車内捜索

“広く・速く・安全に” がキーワード。


■⑤ 「聞き取り捜索」で効率が跳ね上がる

広域捜索では住民の情報が命綱。

● 最後に見た場所
● 在宅の可能性
● 高齢者・障がい者の情報
● 行方不明者のリスト

これにより
捜索の無駄が一気に減る

緊援隊は情報収集隊が聞き込みを担当し、
即座に本部へ共有する仕組みになっている。


■⑥ 危険エリアは「機器」を先に入れる

広域では危険エリアも多い。

● 倒壊建物内部
● 土砂崩れ現場
● 浸水家屋の上階
● 地盤が不安定な区域

危険が高い場所には、
● サーマルカメラ
● 音響探査器
● ドローン
を先に投入してから進入する。

生存者発見率を高めつつ、隊員の安全も守れる。


■⑦ マーキング(Xサイン)で“捜索漏れゼロ”

広域捜索では特にマーキングが重要。

● 捜索済みの建物
● 捜索日時
● 隊の識別
● 危険情報
● 要救助者の有無

を見える化することで、

● 二重捜索を防ぐ
● 捜索の進捗が一目で分かる
● 未捜索エリアがすぐ判明する

広域活動ほど“情報の共有”が命を救う。


■⑧ 最終フェーズでは「タテ・ヨコ・立体」で再確認

広いエリアほど、
“見落としゼロ”のための最終確認が欠かせない。

● 上空(航空隊・ドローン)
● 地上(徒歩捜索)
● 内部(破壊捜索)

の三方向から再確認し、
生存者の取り残しを防ぐ。


■まとめ|広域捜索は“戦略・分担・情報共有”の三本柱

この記事のポイント。

● 優先順位づけが生存率を左右する
● ブロック分けして同時並行で捜索する
● 航空・ドローンの俯瞰が圧倒的に有効
● 一次捜索で人命救助の初動を速める
● 住民の情報が最大のヒント
● 危険エリアには機器投入で安全確保
● マーキングで広域でも見落としゼロへ

元消防職員として伝えたい。 広域捜索は“体力勝負”ではなく“戦略勝負”。 緊急消防援助隊が全国で統一された手順を使う理由は、 どんな広さの被災地でも、生存率を最大化するためです。

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