土砂災害現場は、消防活動の中でも
“最も危険性が高い現場”の一つ。
● 土砂崩れ
● 家屋埋没
● 流木・岩の落下
● 地盤の再崩壊
● 雨による状況悪化
これらが同時に起こる可能性があり、
緊急消防援助隊(緊援隊)は高度な判断で活動する。
ここでは元消防職員として、
“土砂災害現場での救助の核心”を解説する。
■① まずは“二次災害防止”。救助隊を死なせない環境づくりが最優先
土砂災害現場では、救助隊自身が巻き込まれる危険が大きい。
● 余雨で地盤が緩む
● 追加崩落
● 流木の落下
● 土砂の滑走
● 地盤沈下
そのため最初に行うのは、
● 崩落の可能性評価
● 監視員の配置
● 退避ルートの確保
● 安全区域の設定
● 雨量の継続確認
“安全管理のレベル”が生存率に直結する。
■② 情報収集隊が“生存者の位置情報”を徹底的に集める
土砂は人の位置を完全に隠すため、
最も重要なのは どこに閉じ込められているか の推定。
● 近隣住民の聞き取り
● 被災直前の行動確認
● 家屋の生活動線
● 部屋の配置
● 電話履歴
● SNSの最後の投稿
これらをもとに、
“どこに生存空間が残っているか”を絞り込み、
救助ルートを決めていく。
■③ 救助活動は“表層除去 → 掘削 → 空間確保”の三段階
むやみに掘ると、
生存空間をつぶしたり、土砂が流れ込み
要救助者が窒息する危険がある。
緊援隊は以下の順で進む。
① 表層除去(手作業)
→ シャベル・スコップ
→ 小型工具
→ 人体にダメージを与えない慎重作業
② 掘削(機械併用)
→ ユンボ・バックホー
→ 手作業と併せて“丁寧に”
③ 空間確保(ベンチカット方式)
→ 斜面に階段状の足場を作る
→ 土砂の再滑落を防ぐ安全な作業環境を形成
掘削の技術が生存率を左右する。
■④ 生存空間は“家具の下・屋根の下・壁の隙間”に残ることが多い
土砂に埋没しても、次のような場所に空間が残っている可能性がある。
● 机・テーブルの下
● 押し入れの中
● 屋根と床の隙間
● 壁の倒壊方向と反対側
● 家具の横のポケット
情報収集と照合しながら
最も可能性の高い場所を優先掘削する。
■⑤ 雨が続く場合、活動中止の判断も含めた“指揮判断”が必要
土砂災害は雨量とともに危険性が変動する。
そのため現場の指揮本部は、
● 1時間降水量
● 連続雨量
● 表層崩壊の兆候
● 小石の落下
● 斜面の変形
これらを逐一確認し、
「中断 → 再開 → 退避」 を判断する。
“勇気ある撤退”が隊員の命を守る。
■⑥ 隊員同士の声かけ・ロープ確保で安全を維持
土砂現場は足場が悪く、
滑落・転倒・埋没リスクが常にある。
● ヘルメットライト
● 安全ロープ
● ハーネス
● 手元合図
● 離れすぎない間隔
特に夜間・降雨時は視界が悪いため、
声かけによるコミュニケーションが命を救う。
■⑦ 要救助者発見後は“窒息・圧迫・低体温”に最大注意
土砂に埋まった人は、
● 呼吸困難
● 胸部圧迫
● 低体温
● 失血
● 意識障害
が進行している可能性が高い。
救助では、
● まず顔周りの土砂を除去
● 呼吸を確保(エアポケット拡大)
● 強引な牽引をしない
● 医療班と連携して圧挫症候群をチェック
● 救出後は速やかに保温・搬送
“救助の最後の1分”が生死を決める。
■⑧ 機材運用はチーム連携が命を守る
土砂災害では、
重機・チェーンソー・シャベルなど多種多様な機材を使う。
● 重機オペレーター
● 誘導員
● 救助隊
● 医療班
● 情報班
これらが一体となり、
“1つの隊”として動くことが必要。
緊援隊は普段から全国訓練を行い、
現場で最高のパフォーマンスを発揮できるよう作られている。
■まとめ|土砂災害救助は“最も危険で、最も使命感が問われる活動”
この記事のポイント。
● 二次災害防止が最優先
● 情報収集で生存空間を絞り込み
● 手作業+重機の段階的な掘削
● 家具下や隙間に生存空間が残る
● 雨量に応じて撤退判断も必要
● 窒息・低体温・圧挫症候群に注意
● 多職種連携が生存率を高める
元消防職員として断言します。 土砂災害現場は「危険の塊」ですが、 正しい手順・安全管理・連携があれば、 生存者を確実に救い出すことができます。 緊急消防援助隊の真価が最も問われる現場です。

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